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大人のLD(学習障害)について

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

発達障害について言及されるとき、ADHDとASD(自閉症スペクトラム・旧アスペルガー症候群)ばかりが注目されがちだ。このブログでは、私がADHDということもあり、発達障害一般やADHDの話が多く、次いでASDの話をしてきた。
しかし、LD(学習障害)の方も少なくないので、今回はLDのことを書いてみたい。

本人も気づいていないことがある、大人のLD

私は大学で筆記試験対策(公務員・SPIなど)も担当している。
先日、ある公務員志望の女子学生から相談を受けた。
「私は数学がどうしてもできなくて、かけ算とわり算がどうしても苦手だがどうしたらいいか?」
というものだった。

彼女は論理的に会話をすることができ、知的レベルは高かった。ただ、かけ算とわり算がどうしてもわからず、大学受験では数学が不要な文系学部に進学した。
公務員試験に向け、計算ドリルに取り組むなどの対策を一緒に考えたが、どうしてもできるようにならなかった。結局、彼女は軽度のLD(学習障害)と診断を受けた。
公務員の行政職は数字を扱う仕事が多いため、彼女は別の道を歩むことに決めた。

このようにLDのある方は、「読み」「書き」「算数」などの一部が、全般的な知的発達と比較して極端に苦手な箇所がある。

LDも、ADHDやASDと同じように、問題が生じる箇所や深刻さは人によって全く異なる。
上記の例で挙げたように、かけ算・わり算だけ苦手としているケースもあれば、日本語の読みが全体的に苦手なケースもある。

LDのある子ども向けの支援は少しずつ充実してきている。しかし、一方で高校までの学校教育でLDが見逃されていることも少なくない。「彼女は算数が苦手」「彼は勉強が全般的に苦手」「あいつは勉強をする気がない」などの評価を周囲から受け、本人もそう思い込んでいる場合が少なくないのだ。
そんな時、本人はできない部分があることに気がついていても、LDと名前がつく障害だとは気づいていない。

LDは子ども時代だけではなく、大人になってからも「生きづらさ」を生む

大学生や社会人になると、基礎学力以外の要素が重要視され始める。そんな中で、その他能力と、一部の極端にできない部分の差が顕在化することもある。

(1)LDのある大学生の例

あるとても優秀な大学生は、就職活動で苦しんでいた。
彼は字が極端に下手で、LDの中でも「書字」に問題があると思われた。
その彼は、手書きの履歴書がどんなに頑張っても読みづらい字になってしまっていた。
かなり時間をかけて、何度も履歴書を書き直したにも関わらず、履歴書を出すと必ず落とされてしまうのだ。
結局、パソコンで履歴書を提出し、手書きの作業が発生しにくい職種に仕事を決めたそうだ。

(2)LDの可能性がある営業マンの例

知人でかなり優秀な営業マンが、経理に異動したところ全く仕事ができなくなった。
その方と話す機会があったのだが、数字が昔から全くダメで、数字が曲がって見えると言っていた。
本人はLDという用語を知らず、診断は当然なかった。しかし、LDの可能性は少なくないように思われる。

 

このように、本人は気付いていなくてもLDのある大人の方は少なくないのではないかと思う。
一方で、重度でなければ、大学の場合なら取得科目の選択、仕事の場合は環境調整でなんとかなるケースも少なくないように思われる。
この「なんとかなりやすい」ところが、発達障害についての知名度が上がってきている中で、LDの知名度がまだ低いままとなっている原因であるように感じられる。

しかし、LDのある方も私の見る限り「生きづらさ」を抱えていることが多い。
上述の彼女も公務員という夢を諦めざるをえない状態に追い込まれた。

このLDの大変さ・生きづらさももう少し注目されていいのではないか。
そして必要な配慮が受けられるようになってもいいのではないか。
大学で年間何人かLDと思われる学生と接する身として強く感じている。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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