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カサンドラ症候群-(2)発達障害のある方がパートナーと良好な関係を続ける為に

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

■前の記事:
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さて、前記事で、発達障害のある方のパートナーが、なぜ心身に不調をきたす場合があるのかについて見た。

この記事では、具体的にどうすればパートナーをカサンドラ症候群にしないのか、発達障害のある方の立場から、私の経験を踏まえて具体的な対策を考えたいと思う。

パートナーをカサンドラ症候群にしないために。発達障害のある方ができる具体的な対策

パートナーをカサンドラ症候群にしないために

(!) パートナーがカサンドラ症候群になる可能性があると自覚する

まず、私の例のように、発達障害のある方は「自分がやるべきことをやっている“つもり”でも、パートナーにいつの間にか辛い思いをさせている可能性がある」と自覚することが重要だと思う。
以前の私にはこの自覚が決定的に足りなかった。
育児・家事に私が費やす時間が、日本の統計平均値より多かったことを見て、育児参加をしている夫になったつもりでいた。しかし、それでは十分でなかった。

共感性が低い場合、相手がいつの間にか辛い状況に陥っていることに気がつけない可能性がある。そのことを十分に自覚しておくことが必要だ。
しかし、「辛い思いをさせないための自覚」というと、悲壮感が漂う。私も、カサンドラ症候群だと妻に言われてから、何とかしないといけないと自分を追い詰めた。そして、私までも精神的に辛くなってしまった。

そこで、まずは、ポジティブな目標を置くことが大切だと思う。
私は「妻がリラックスして日常生活を送ることができる」という目標を立てている。そのための方策を色々考え、その一環として妻との精神的交流を重要視するようになった。

(!) 「傾聴」「受容」でカサンドラ症候群を防ぐ、または和らげる

次に、発達障害のある方はパートナーに対して「傾聴」を心がけることが必要だ。
パートナーの話をしっかりと聞く。その際に、スマホ・テレビを見ず、全ての神経をパートナーに傾けて話を聴く。この時間を意識的に作ることが重要だと思う。また、その時に「受容」的な態度をとることが大切だ。

恋人から夫婦となり、同居をするようになると、パートナーがいることが日常となり、ついつい相手の言葉に意識して耳を傾けないようになってしまう。
発達障害のない方の場合は、スマホを見ながらでも相手に感情的な交流を感じさせることができるのかもしれない(そうでないような気もするが)。
しかし、発達障害のある方の場合、ただでさえ感情的交流が苦手なので、スマホを見ながらであれば、パートナーは交流ができている感覚をまず持たない。

パートナーと話すときは、極力、全ての作業を中止してから話を聞くようにすることが大切だと思う。
娘が寝た後に妻が何か話しかけてくるときは、私はどれだけ忙しくても、どれだけテレビを見たくても、全ての作業を中止し、妻の話を聴くようにしている。
5分で終わる時もあるし、1時間かかる時もある。妻から、私に対するグチを聞かされたり、面と向かって厳しいことを言われたりすることも少なくない。
時には、私も腹を立てて言い返し、ケンカになることもある。だが、妻の言葉をできるだけ受け止め、理解を示すようにしている。

「傾聴」「受容」のための具体的な方法は、インターネット・書籍で多くの情報が出回っているため、ここでは触れない。

ただし、発達障害のある方も含め、外の世界では傾聴・受容ができる方も多い。
外部の方に対して話をしっかり聞いて受け止めようとすることを、パートナーに対して行う。それだけで、案外問題が解決することもあるのだ。また、外部の方に対してできるのに、パートナーに対してできないのは、自戒を込めて言うが「甘え」と言われても仕方がないように思われる。

発達障害特性で起こる問題を乗り越え、パートナーとのより良い関係や、幸せな生活を目指して

以上のような工夫をして、私の場合は妻が少しずつは回復している。

妻に対して腹が立つことも少なくないし、不満がないと言えば嘘になる。しかし、私は、妻に再び孤独感・疎外感を感じさせるようなことはしたくない。幸せな家族生活を送りたいと考えている。これは、パートナーのいる多くの発達障害のある方も同じではないだろうか。

少しの心がけと行動で、パートナーをカサンドラ症候群にさせなくて済むかもしれない、またはカサンドラ症候群を軽くできるかもできない。

パートナーとの関係は、人生の中で最も重要な人間関係の一つだ。
発達障害のある方とそのパートナーの方は、その関係性についても、もしかしてやりづらさを感じるかもしれない。だが、お互いの努力できっと超えていくことができる。私はそう考えている。

最後にもう一度言っておきます。この記事は、発達障害のある方との恋愛関係・婚姻関係を否定するものではありません。
片方に発達障害のある夫婦で幸せになっている事例はたくさんあります。
発達障害のない方の夫婦で不幸になっている事例もたくさんあります。
発達障害は人間の特性の一側面にしか過ぎないということは、どんな方にもご理解いただきたいなと強く思っております。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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