catchview

発達障害のある新入社員の生き残り術/発達障害のある新人教育術(2)

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

発達障害のある新入社員が、入社直後を切り抜けるには

《発達障害のある新入社員の生き残り術/発達障害のある新人教育術(1)》の続きになる。
発達障害のある新入社員が企業に抵抗する方法、発達障害のあると思われる新人の上司・教育担当者がその新人を戦力化するための方法を模索したい。

新入社員が適応するための4要素、

(1)業務遂行能力の獲得
(2)部署内での人間関係の構築
(3)企業内の暗黙のルールへの順応
(4)社会人ルールへの順応

のうち、今回は(2)(3)を見ていく。

(2)部署内での人間関係の構築 を達成するために

リクナビnextの調査による、本音の退職理由アンケートでは、
(参考)https://next.rikunabi.com/tenshokuknowhow/archives/4982/

◇1位:上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった(23%)
◇3位:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった(13%)

と、退職理由のアンケートでは人間関係が大きな割合を占める。
それほど、仕事では人間関係は重要だ。職場の人間関係がうまくいかない時のストレスも大きい。同じ組織で長期的に働くためには、人間関係の構築が必須となる。

発達障害当事者→どのように関係を築くか、慎重に判断しよう

では、新入社員側は、人間関係の構築のためにどうしたらいいのだろうか。
私は、とにかく慎重になることが重要だと思う。新たな部署に配属されて最初の3か月は、いわばお試し期間である。部署内の方々は新入社員がどんな人で、どのように関係を築くかをその3か月をかけて判断する。
この期間内に「あいつはダメ」「あいつとは関わらない方がいい」と思われると、挽回することは困難だ。だから、最初の3か月は注意に注意を重ねよう。特に、新入社員になって最初の3か月は部署だけでなく、社内のかなり広い範囲から注目されていることを常に意識しておこう。

では、どう慎重になればいいのだろうか。大切なことは「観察」だ。上司はどんな人で、同僚はどんな人なのか、よく見ておこう。相手がどんな人なのかが分かってきてから、こちらも少しずつ自分を見せていく。
ADHDがある方は、つい気を抜いてやってはいけないことをしがちだが、最初の3か月はとにかく気を抜かないでおこう。(私は何度失敗したことか…)
ASDのある方は特性上、人間関係構築が苦手な方も多いが、最初の3か月だけはとにかく観察し、相手に合わせた接し方を考えよう。

発達障害特性は隠そうとしても、どうせバレる。
であれば、印象形成に重要な影響を与える最初の3か月は特に注意しておこう。

上司・教育担当者→適切なフィードバックを心がける

では、教育側はどうすればいいのか。
発達障害があると思われる新人が配属された場合、もしくは配属された新人に違和感を覚えた場合、原則は「攻撃しないこと」だ。
発達障害のある方は、発達障害特性の影響で攻撃された経験を持つ方が少なくない。そういう方は、攻撃を受けること対しては敏感だ。攻撃をしたつもりがなくても、攻撃を受けたように感じることもある。

そして発達障害のある方は、見かけ以上にストレスを感じることが多い。例えばASDのある方の中には、感情が表面化しにくい方もいる。本人が淡々と仕事をしているように見えて、ストレスを溜め込んで(本人自身がストレスに気がついていない場合もある)、突然会社に来なくなるというケースも少なくない。

もちろん、耳の痛いことを伝えないといけないシーンはある。その時に攻撃要素が入ると急に殻に閉じこもってしまうこともある。そのため、フィードバックを適切に行う必要がある。
『フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術 (中原淳著・PHPビジネス新書)』など、フィードバックの原則を参考に、励ましなどの精神支援を重んじて、ゆっくりと関係を作っていくといいだろう。

(3)企業内の暗黙のルールへの順応 を達成するために

組織はそれぞれ暗黙のルールを発達させていく。特殊な用語であることもあれば、行動する時の決まりだということもある。
例えば、私は1社目では、上司に何も言わず好きな時間に昼食に行ってよかった。2社目では明確なルールこそなかったが、昼食に行くのは12:00~13:00の間で上司に許可を取らなくてはいけなかった。2社目に入った時、最初は上司に何も言わずに昼食に出かけて「常識を知らない人」と思われていた。入社して三ヶ月後、同僚から指摘され、ようやく知ったが一度ついたイメージは簡単には変わらなかった。

発達障害当事者→先輩にフィードバックしてもらうように頼もう

このように、会社の中では多くのルールが存在する。そのルールに発達障害のある人はどうしたらいいのか。
ASDのある方については、《ASD(旧アスペルガー症候群)のある方向け仕事上の暗黙のルールに対処する方法》に記載した。
また、《発達障害当事者の天敵・飲み会(2)~対処方法~》には飲み会に限った暗黙のルール対処方法を記載している。

発達障害のある方全体に共通する、暗黙のルールの対処方法としては、一般論としては、教えてくれる人を作ることだ。
同じ部署の先輩に、自分はルールとかマナーが苦手なことを伝え、早く企業に馴染みたいから、気になる点があればフィードバックしてもらうように頼む。そしてフィードバックをしてもらった時、言い訳せず素直に受け取る。それだけで、企業の暗黙のルールに早く気付くことができる。

上司・教育担当者→「当たり前」の言葉で追い詰めないように気をつける

では、上司・先輩の立場から発達障害のある方に、暗黙のルールをどう教えていけばいいだろうか。
教える側の一番の問題は、それが暗黙のルールと気づいていない場合が多々あるということだ。暗黙のルールが「当たり前」となっていることが多い。また後述の(4)社会人一般のルールと混ざっている場合が多い。

組織に加わったばかりの新入りからすると、暗黙のルールはかなりややこしい場合が多い。
組織に以前からいる人は当たり前だと思っているし、何より明示化されていない。発達障害のない方は暗黙のルールを無意識的に素早く取り入れる。しかし、発達障害のある方は、その暗黙のルールの存在に気がつかない、もしくは気づいてもうまく適応できないことが多い。

私の場合、1社目は社歴が短く、様々な企業から人が集まっていたため多くの先輩から会社独自のルールと、社会人一般のルールを区別した形で教えてもらうことができた。
しかし、2社目は会社にある程度歴史があったので、暗黙のルールが多くあった。私の上司は、その暗黙のルールを「当たり前」とみなしていた。最初はその「当たり前」のルール自体が私にはわからず、また会社独自の暗黙のルールに気づいてもすぐに適応できなかった。当時の上司からはそのことで何度も責められ、怒鳴られた。死を考えるレベルまで追い詰められたが、その時、死んでいたり訴訟を起こしていたりしたら、その企業はどうなったのだろうかと思うことがある。
それほど「当たり前」を武器にすることは、発達障害のある方を追い詰めることがある(発達障害のある方に限らないと思うが)。


次回《発達障害のある新入社員の生き残り術/発達障害のある新人教育術(3)》で、(4)社会人一般のルールについても見ていく。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

就労移行支援エンカレッジ02 就労移行支援エンカレッジ01