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インターネットと発達障害(2)~ポジティブな影響~

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

インターネットと発達障害(1)~ネガティブな影響~」の続きを書く。
発達障害とインターネットの関係について考えてみたい。
前回はネガティブな影響を書いたが、今回はポジティブな影響を書いてみたい。

インターネット

発達障害とインターネット~ポジティブな面~

インターネットが発達障害のある方に与えるポジティブな影響は何か?私は、仲間が作りやすいことだと思う。
前回、「インターネットの人間関係は、リアルな人間関係と違って、関連する要素が少なく、仕事のような困難な課題をクリアするわけでもないので、葛藤が比較的少ない」と書いた。これは、引きこもり中の方の社会復帰を遅らせる要因にもなる。

しかし、一方で、インターネットから生まれる人間関係はメリットも大きい。実際にインターネットに関する研究では「社会的補償仮説」というものがある。
社会的地位が低かったり、対人関係に困難さがある方にとって、インターネットを活用することが安全で快適な対人関係構築に役立つという理論だ。

まず、インターネットから生まれる人間関係は、リアルで生まれた人間関係と違って共通点が少ない。例えば趣味のコミュニティであれば、その趣味が好きという共通点以外は何も関連がないことが多い。
一方でリアルな人間関係は複雑だ。例えば、大学の同級生のAさんはあまり話したことがないが、自分の友人のBさんとは仲良い。またAさんは○○部に入っていて、そこは私の知人のC君がいて、などと重層的な人間関係が生まれる。

人間関係

人と接する時には、その背後にある背景を察知してふさわしい対応を求められる。
発達障害のない方はそれが自然にできるのかもしれないが、発達障害のある方にとって困難を伴う場合が少なくない。

また、リアルな人間関係は何かと葛藤が起こりやすい。
特に学校や職場など毎日顔を合わせたり、仕事をするなど共通の課題を乗り越えたりしないといけない場合、葛藤が頻繁に起こる。
葛藤が発生した時、発達障害のある方は障害特性由来でうまく適応できなかったり、攻撃を受けたりする場合は多い。
私は社会人時代、発達障害特性が原因で二度のパワハラを受けてから、毎日同じ人と顔を合わせる仕事に恐怖を感じるようになった。それが今でも続いており、フリーランスとして活動する一因になっている。

発達障害のある方はインターネット上で人間関係を構築しやすい

インターネット上でゲームなどの共通の趣味を持つ人と友人・仲間になることで、葛藤が少なく、受け入れてもらいやすい人間関係を作ることが可能になりやすい。
共通の趣味があることは会話の土壌となるため、コミュニケーションや対人関係が苦手な人も長続きする人間関係を構築しやすい。インターネット上で出会い、リアルでも友人になることも最近では少なくない。
もちろん出会い系を中心に、問題のある人物がいたり、犯罪に巻き込まれたりするリスクはある。そのようなリスクを避けることができれば、自分に合う仲間や友人を作りやすいのはインターネットならではのメリットだと思う。

メンタルヘルスの観点から見ると、精神的な健康が損なわれてきたとき、人から助けてもらうことは非常に重要だ。
その時に、励ましてくれたり、話を聞いてくれたりする友人の存在は非常に大きい。ただし、特定の友人に依存してしまうと、その友人が辛くなってしまい、友情関係が崩れることがある。

そのため、話ができる友人はある程度の人数がいた方がいい。発達障害のある方は友人関係の輪が狭いことが多い。
そこで、インターネットなどで共通の趣味などがきっかけに、なんでも話せる友人がいることは、自分をメンタルヘルス不調に追い込まないためにも重要だ。

励まし、話を聞いてくれる友人の存在の重要さ

以前、発達障害のある方に向けてメンタルヘルス研修を実施したことがある。その時に、話を聞いてくれる友人・家族・同僚・上司の重要性について話した。
すると、ASD(自閉症スペクトラム障害)のある参加者の方が、「私は話を聞いてもらえる方が40人はいます。全員インターネットで出会いました。」と言っていた。
その方はなかなかハードな職場で働いているが、その友人たちから励ましを受け、今も仕事を続けているそうだ。
その方は対人関係・コミュニケーションが決して得意ではない。でも、インターネットを通してそれだけの人間関係を作ることができ、それがその方の社会適応を助けている。

もちろん、無理にインターネットを通して友人を作る必要はない。だが、自分の趣味などの共通点がある仲間をインターネット上では探しやすく、その方々と人間関係を作ることは大いに役に立つこともある。

インターネットは良くも悪くも我々の生活を一変させた。発達障害のある方にとっても、インターネットの存在による影響は大きい。
いかにネガティブな面を抑え、ポジティブな面を活かすことができるか、それは一人ひとりの選択に依るのだろうと思う。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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