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何気ない会話が障害者差別につながることを体感した話

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

非常に腹立たしいことがあったので記しておく。
率直に言えば、発達障害者に対する差別発言(と思われること)を聞いてしまったのだ。

障害者差別と受け取れる発言に絶句する

先日、何度か仕事をさせていただいている会社と打ち合わせをした。担当者の方は誠実な方だ。私に発達障害があることを、その方にはお伝えしていた。その日はもう一人、後輩にあたる若い社員の方も同席した。

打ち合わせが済んだ後に雑談をしていると、発達障害の話になった。すると、若い社員の方は

「発達障害のある方は○○とか、△△とかの症状があるのですよね。私も同じ傾向にあるので、もしかして発達障害なのかもしれません。まあ、私の場合は努力と工夫でなんとかなりましたが。」

「発達障害があっても頑張っている人もいますよね。人間誰しもその人なりの苦しさを抱えているんです。発達障害があるからといって働いていない人は、単なるわがままですよ。」

という発言があった。
発達障害に対する無知からくる、明らかに間違った発言だ。発達障害で苦しんでいる人を努力不足と排除していることは、差別をしていると言ってもいいだろう。

この話を聞いた時、私はまず絶句した。そして、その後に猛烈な怒りが湧いてきた。発達障害特性に苦しみ、いくら努力してもなかなか社会適応ができず、人生に絶望していた私の20代後半~30代前半を全否定されたように感じたからだ。
怒鳴りたい衝動にかられたが、大事な取引先だという1点により、私は理性を保つことができた。

彼の表情から悪気なく言っていることが見てとれた。後から知ったことだが、彼は私に発達障害があることを知らなかったので、本当に悪意がなかったのだと思う。彼は良くも悪くも普通の社会人なのだ。
その普通な方が、いわば差別発言を何気なくしていることに驚いた。発達障害に関する情報が広がったとはいえ、きちんとした知識を持っていない方が普通にいることに対して、とても悲しくなった。

もう一つ悲しかったのが、担当者の方が発言をスルーしたことだ。おそらく雑談だったので特に気にしなかったのだろう。私はその方を信頼しており、仕事ぶりについては敬意を抱いている。私にたくさんの機会をくれる恩人だ。
その方が、後輩の差別発言に関して特に気にする様子でもなかったことが、余計に私を傷つけた。

打ち合わせが終わったのが昼過ぎだった。打ち合わせ後は大量に溜まった作業を行うつもりだったがあまりに精神が高ぶり、そのまま立ち飲み屋で泥酔するまで飲んだ。そして、そのまま家に帰り、その日は早く寝た(妻に怒られたことは言うまでもない)。
翌朝、もう一度冷静に考えてみたが、やはり怒りが湧いてきた。

よく考えた上で、担当者の方に電話した。そして、昨日の後輩の発言は、見方によっては差別発言にあたることを伝えた。最初は理解できなかったようだが、だんだんとこちらが何を伝えたいか理解してくれたようだ。

そして、担当者の方は私に謝罪してくれた。大仰と思うくらいの謝罪だった。そして後輩によく言い聞かせると言ってもくれた。その後、後輩の方から謝罪の電話が入り、ひとまずその対応は終わった。

ショックと怒りはまだあるものの、私もそれで手打ちにした。発言をした彼は、先輩から注意を受けただろう。彼らの上司にそのことが共有されたかどうかはわからない。
おそらく発言をした彼に、具体的なペナルティーはない。一方で私は大きなリスクにさらされている。この件をきっかけに、その会社からの依頼は少なくなるかもしれない(まだ分からないが)。
キャリア面、金銭面では絶対にすべきではなかった。しかし、言わずにはいられなかった。差別発言をした人は守られ、差別発言を受けた私はリスクにさらされている。残念ながら、日本社会における現実がここにある。

発達障害の認知が広がっても正しい理解が広がらなければ

このブログでは繰り返し書いているが、発達障害についての認知はここ10年で大いに広まったものの、正しい理解が広まっているかと言うとそうでない。
そして、正しい理解がないことが、言語面でも行動面でも発達障害のある方をどれだけ傷つけるか、身をもって体験してしまった。

社会はまだまだ発達障害に対する偏見が多い。一方で、発達障害の良さを生かしてくれる場や機会はまだまだ不足している。

発達障害のない方には、発達障害に対するちょっとした誤解・発言が聞いている人を大きく傷つける可能性があるということを知ってほしい。それは当事者だけでなく、その家族などの近しい人にも当てはまる。私の妻がこの発言を聞いていたら、やはり傷ついたと思う。

🔽 発達障害についての理解を深めたい方はこちら
https://www.gov-online.go.jp/featured/201104/

※政府広報オンライン「発達障害って、なんだろう?」

発達障害のある方は、その偏見・差別が社会にまだまだあるということは胸に刻んでおかないといけない(言うまでもないことかもしれないが)。
そして、その偏見や差別があるということを前提に、自分の人生を作っていかないといけない。

他人や社会に文句を言うことは簡単だが、何かが変わることはない。結局は自分が変わるしか、自分の人生を作っていくことができないのだ。

※その会社も含めて、ありがたいことに私はいい会社・大学とばかりお付き合いさせていただいています。念のため。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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