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発達障害のある大人と自己肯定感(3)~自己効力感を高める~

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

自己肯定感シリーズの3回目になる。
1回目でなぜ発達障害のある方は自己肯定感が下がりやすいかについて論じた。
2回目では自己肯定感の要素を示し、発達障害のある方に特に大事な自己受容感、自己効力感、自己有用感のうち、自己有用感について説明した。
今回は自己効力感について説明したい。

自己効力感とは?

自己効力感とは、一言でいえば「自分はできる」と思うことができる感覚だ。
「自分はできる」と感覚があれば、少々難易度が高いことでも前向きに取り組むことができる。

例えば、難易度が高い資格を取得したいと思ったときを考えてみたい。
自己効力感が低い状態だと「私なんて受かりっこない」と思い、挑戦さえしない可能性が高い。
しかし、自己効力感が高い状態だと「私は受けることができる」と思い、挑戦する可能性が高い。
もちろん、そこで実際に努力を継続できるか、受かるかは別の話になるが、自己効力感が高いことで様々なチャレンジを行うようになる。そして、チャレンジを行うことで、新たなスキルを獲得したり新たなチャンスを得られたりするのだ。

発達障害のある方は、自己効力感も低い傾向にある。
それは「できない」という経験を過去に繰り返してきた傾向にあるからだ。
発達障害のある方と話をすると、この「できない」体験を非常に多く聞く。私自身も過去から現在に至るまで、頻繁に「できない」体験をしている。

では、この自己効力感をどう高めていけばいいのか。自己効力感は以下の4要素で決定される。

(1)達成体験

自分自身が過去に達成・成功した経験があれば自己効力感が上がる。

(2)代理体験

他者が達成・成功した経験を観察すること。例えば、好きなスポーツチームが勝利することも自己効力感の向上につながる。

(3)言語的説得

ポジティブな言葉を投げかけられると自己効力感が上がり、ネガティブな言葉を投げかけられると自己効力感が下がる。

(4)生理的感情的状態

体調や気持ち。例えば寝不足などで疲れていたり、落ち込んだりすれば自己効力感も下がってしまう。逆に、体調が万全だったり、いい気分であったりすれば自己効力感が高くなる。

では、発達障害のある方は自己効力感をどう上げていけばいいのか。

自己効力感を高めるには

まずは、(4)生理的感情的状態を整えることだ。特に、体調を万全にすることが重要だ。
発達障害のある方は生活習慣が乱れて睡眠不足になりやすい。睡眠不足によって、自己効力感が下がるだけでなく、メンタルヘルス全体にも影響があることが分かっている。また、業務効率が落ちたりミスが増えたりといいことがない。

発達障害のある方は、何かと睡眠不足になりがちだ(自戒を込めて)。まずはとにかく生活習慣を整え、十分な睡眠時間を確保しよう。

そして、自己効力感を高めるためにはやはり(1)達成体験を増やすことが重要だ。
ただし、達成体験が重要と分かっても、いきなり達成体験を増やすことができない。そんな時はどうすればいいのか。そういう時は、既に自分が行ってきたことの中から達成体験を増やし、言語化することが重要だ。

私は就職活動支援を行っているが、就職活動では自己PRを伝えることが求められる。
自己PRを作る中で、自分があまり重要視していなかった体験が、実は価値のある成功体験だったことに気づく場合がある。気づいた瞬間に、その方の顔つきが少し変わることがある。自己効力感が高まったのだ。

このように、自分が既に取り組んできた中に達成体験が見つかることが多い。紙に成功体験がなかったか書き出してみるだけで新たな成功体験が見つかることもあるので、自己効力感を高めた方はやってみよう。

余談だが、発達障害がある方が就職・転職を目指す場合、就労移行支援施設を利用するようがいいと私は思っている。それは就労移行支援施設では自己効力感が高まりやすいからだ。

就労移行支援施設でのプログラムに取り組むこと、生きづらさを感じる仲間と話し合うことでも自己効力感が高まるし、就職に向けてスタッフの方々と自己PRを作る作業自体が自己効力感を高める重要な役割を果たす。
そして、自己効力感が高まった状態の中で就職すると、「自分はできる」という思いでチャレンジをするため、職場に早く適応できる可能性が高くなるのだ。

周囲から発達障害のある方の自己肯定感を上げるには

なお、周囲の方が発達障害のある方に対して自己肯定感を上げるためには、自己効力感を上げるという方法が最も楽であるように思われる。
言語的説得を活用し、常に励まし続けること。そして、小さな成功体験を意図して積んでもらうことで、自己効力感を高めることができる。

私はパワハラを受け、精神状態が大いに悪化したことがある。誰が見てもまずい状態だったようで部署移動になったが、次の上司は今考えると、自己効力感を高めるかかわり方をしてくれた。
精神状態の悪い私を常に励まし続け、私にとって適度にチャレンジになるような仕事を任せて、成功体験を積ませてもらった。

パワハラの傷があまりに深かったため、結局会社は辞めてしまったが、次の上司が自己効力感を上げるような関わりをしてくれなかったら、立ち直りがもっと遅くなった可能性は十分にあり得る。
このように、発達障害のある方の周囲にいる方は、自己効力感を高める関わりを心がけていただきたい。

自己効力感は高まりやすく、低くなりやすい。発達障害のある方は、意識して自己効力感を高め、挑戦をしていこう。我々発達障害のある人にとって、この「生きづらい」社会を生きやすくするためには、挑戦が必要になるからだ。

次回、自己肯定感を高めるための最後の要素である、最後の自己受容感について書きたい。

発達障害のある大人と自己肯定感(4)~自己受容感を高めるために~

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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