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障害のある学生にとっての障害者雇用という選択肢

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

「新卒で障害者雇用という選択をどう思いますか?」

私が非常勤講師をしている大学の学生に以前聞かれたことがある。とある理由で、講義内に私が発達障害であることをオープンにしたのだが、その数週間後、授業が終わった後にその学生から質問されたのだ。その彼は、自分にも発達障害があることを教えてくれた。

その時、「障害者雇用は選択肢の一つとしてアリだと思う。組織に適応しやすいというのは大きなメリットだ。だが、給与の安さやキャリア形成などの問題点もあるから、よく考える必要がある。」と答えた。妥当な答えなのかもしれない。だが、その答えでよかったのか、その後も時々思い返すことがある。

就職活動という人生を大きく左右する状況において、障害者雇用という選択肢はどうなのか、ここでしっかり考えてみたい。
障害者雇用については、以前「障害者雇用での就職・仕事ってどうなん?」 というテーマで書いたことがあるので、今度はもう少し具体的に書いてみたい。

発達障害のある学生にとっての障害者雇用は?

先ほども書いたが、一般的に障害者雇用のメリットは、障害特性に対する配慮を受けられるため、仕事に適応がしやすいことで、デメリットは給料が安いこととキャリアアップに課題があることだ。

では、障害者雇用という選択肢は発達障害のある学生にとって良い選択肢なのか、良くない選択肢なのかをもう少し深掘りしてみたい。と言っても、良い選択肢なのかは一概に答えられることではない。

障害状況

本人の障害の状況によって変わってくる。発達障害の特性の大きさ、障害の種類、他の障害もあるかどうかなどにより、社会適応のやりやすさは異なり、それに応じて選択が変わってくる。発達障害特性にも様々あるが、程度が重い方がやはり一般雇用で適応していくのは難しくなる。

社会人生活

自分がどのような社会人生活を送りたいのかによっても変わってくる。どれくらいの給料を得たいのか、どのような仕事をしたいのか、などが関係する。この辺りは個人の価値観によって大きく変わってくるものだ。キャリアアップ思考なのか、生きるためのお金が稼げれば良いのかなど、何を大切にするか?という要素がある。

家族の存在

家族を作りたいのか、その家族を養う必要があるのかによっても、キャリアの選択肢が異なる。私は結婚した当初は共働きで、一時は妻の方が収入が多かった。しかし、子供が生まれ、妻が専業主婦になる必要が出た時に、私が稼がなくてはならないお金が急に増えた。そうなった時に、自分のキャリアを変えざるを得なくなったのだ。
このように、自分がどのような社会人人生を選びたいかによって、職業選択は大きく異なってくる。

障害者雇用の知識

障害者雇用に関して持っている知識によっても、選択が変わってくる。障害者雇用については、情報が少ないこともあり、実態が誤解されているように感じる。
例えば、障害者雇用は様々な種類に分類することができる。発達障害のある方を対象とする障害者雇用を乱暴に2つに分けてみると、特別なスキルを必要としておらず給料が低く抑えられた障害者雇用と、特別なスキルを必要としており、ある程度給料が高い障害者雇用に分かれる。

プログラミング、デザイン、HP作成など特定のスキルを必要とする障害者雇用は比較的求人があり、給料が高い傾向にある。また、これらのスキルを必要とする企業は、発達障害のあるなしよりもスキルを重視する傾向にあり、一般雇用でも採用されやすい傾向にある。
一方、私が持つ講師スキルのように、あまり求人がないケースも見られる。私が障害者雇用を考えた時、自分の磨いてきた講師スキルはごく一部の例外を除いて、障害者雇用では評価されるものではなかった。このように、評価されやすいスキルと評価されにくいスキルがあることを知っておこう。

自分が学習しているスキルで求人が多くあれば理想的だが、今学習していないスキルであっても、興味があるなら学習できる機会は多くある。
このように、障害者雇用を考える上で、障害者雇用についてよく調べ、どんな求人があるか?を掴んでおくことは、一般雇用を選ぶか、障害者雇用を選ぶかの判断基準として実は重要である。

改めて障害者雇用について考えてみたが、以上のように、発達障害のある学生が一般雇用を目指すか、障害者雇用を目指すかどうかには、様々な要因が絡んでくる。
かけがえのない自分の人生なので、どちらを選ぶにしても、よく調べ、考えて就職活動に臨んでほしいなと思う。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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