発達障害と自己啓発本・仕事術本との付き合い方
【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。
自分でも書き方に困るテーマを選んでしまった。
あらかじめ断っておくが、自己啓発本や仕事術本の存在意義を否定する気はない。読んで救いになったり、参考になったりする人も多くいるだろう。しかし、発達障害のある人が読む時には、注意をすることが必要だと思うのだ。
発達障害のある方にとっての自己啓発本・仕事術本の効果
自己啓発本や仕事術本の多くは、一人か少数の人間のうまくいった話から”成功”の秘訣が書かれている。読む人によっては、それを読み、実践することで人生が変わることもあるかもしれない。
だが、発達障害のある人にとって、自己啓発本・仕事術本を読むことによる効果はどれくらいあるのだろうか。私は少ないと思っている。
というのも、発達障害のある方は、人それぞれの特性があり、強みと弱みが極端な傾向にある。加えて、性格や個性もバラバラだ。そのように、発達障害があるとばらつきが強いため、個人の考えた成功法則が当てはまる可能性は少なくなるのだ。
ただ、自己啓発本・仕事術本を読むと、一時的な高揚感を得ることができ、読むと自分には何でもできそうになる気がする。私も社会に適応できず苦しんでいたときは、よく自己啓発本を読んでいた。おそらく200冊くらいは読んだと思う。そこには様々な”成功の秘訣”が書かれていた。実践したものも多くあるが、結局それらの本が私の人生を好転させることはなかった。
また、自分の特性にそもそも当てはまらない”成功の秘訣”も数多くあった。ある本では、”できる人”のポイントとして、「翌日の準備を完璧にできる人」と書いていた。ADHDのある私にとって、「完璧な準備」というものはとてもハードルが高い。やってみようと実践し、すぐに挫折した。結構有名な著者の本だったこともあって、「自分はできない運命なのかな」と悩んだことをよく覚えている。
今になってみると、準備が苦手でも大活躍している人も知っているし、その本の著者個人の成功法則であって、私にとっての成功法則ではないことはよく分かる。
自己啓発本・仕事術本は捉え方に注意する
では、発達障害がある方は、自己啓発本や仕事術本を読まない方がいいのだろうか?私はそうは思わない。読んだらいいと思う。ただ、読む時に注意が必要だと思うのだ。
最も大切なのは、「本にはヒントが書いてあるかもしれないけど、答えは書いていない」と考えることだ。仕事術本はそうでもないが、自己啓発本は「人生を確実に好転させる鍵がこの本に書かれている」という見せ方をすることが少なくない。だが、そんな答えのようなものは存在しない。自分の人生を確実に変えるような”答え”を求めると、結局期待外れに終わってしまう。そうではなく、本の中で1つか2つでも、自分の行動を変えられるヒントがあればラッキー、くらいに考えておいた方が、自分の人生を変える本との出会いにつながりやすい。
結局、本に書いてあることは、他人の考えた成功法則でしかない。発達障害のある方は特にだが、自分の成功法則は自分で見出すしかない。本はその手助けをしてくれるが、答えは教えてくれない。様々な書かれたことの中から、役に立ちそうなことを発見して、実践する。実践して本当に役に立ったものを自分の行動に取り入れていくのが、自己啓発本や仕事術本の正しい使い方だと思う。
ここまで書いて、なんでこんなことを書いたのかなと思い返してみた。今回、このことを書いた理由は、最近、人からある本を熱烈に勧められたからだ。あまりにも熱烈に勧められるので読んでみたが、私には響くことがなかった。でも、その方には大きく響いたようだった。
本に答えを期待することはやめて、ヒントを探すために本を読み、行動し続けよう。そうすると、自分の中での答えがいつの間にか見えてくるはずだ。
【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。
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