その仕事ができないのは発達障害特性なのか?甘えなのか?
【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。
「できない」のが発達障害特性のせいなのか、単なる甘えなのか。見極めは難しい
発達障害のある方が、仕事における特定の業務について他者よりできないパターンは頻繁に見られる。
その原因が「発達障害特性のため」なのか、「甘えているだけ・言い訳しているだけ」なのか、見極めは非常に難しい。
本人も見極められないし、周囲の関係者も見極めるのは困難だと思う。
発達障害のある本人も無意識に「甘え」の状態になってしまうことがある
例えば、発達障害に理解のない職場の場合は、上司や周囲の方々から「甘えているだけ・言い訳しているだけ」と見なされる場合は少なくない。私は企業で働いている時、ある業務について何度指摘されても改善できず、「甘えている・甘えるな」と言われ続けたことがある。
周囲から怒られ続けたこと、私自身もできない自分を責め続けたことから、ノイローゼに近い状態になっていた。なお、後年になって発達障害特性が原因であることがわかった。
一方で、発達障害を言い訳として、努力を諦めるという「甘え」の状態になってしまうこともある。発達障害は先天的な脳機能の構造が原因である。その時、自分が「やらない」理由を発達障害特性の「できない」理由に置き換えてしまうことがある。
※(参考)厚生労働省HP:病名から知る発達障害
私の場合だと、最近までリーダー的な役割を果たすことは発達障害特性があるので無理だと思っていた。しかし、仕事でどうしてもリーダー的な役割を果たさざるをえなくなった。やってみると案外役割を果たすことができて、自分自身が驚いた。
私は発達障害特性を原因に、リーダー的な役割を「やらない」ことにしていた。これは「甘え」と言っていいだろう。
このように、「甘え」でやっていないだけと思ったら、「発達障害特性」でできないということもある。逆に「発達障害特性」でできないと思っていたら、「甘え」のためやっていないだけのこともある。この区別が難しいのだ。
そして、発達障害特性なのか、甘えなのか微妙な場合もかなり多いのだ。
発達障害のある方の「できない」としっかり向き合うには?
発達障害のある方本人の場合
では、発達障害のある方は仕事ではどう考えればいいのだろうか。
私の見たところ、発達障害のある方の多くは、社会に適応していくためにかなりの努力をしている。もっと言うと必死にもがいている。だから全体的な部分で甘えは少ないように感じている。
一方で、部分的に「甘え」はついつい生まれてしまう。やらない方が楽だから。そして発達障害という強力な理由で理論武装できるから。
しかし、本来なら「やれる」ことを「やらない」のは貴重な成長の機会を失っていると思う。
そのため、発達障害のある方は、特定の業務に対して、最初から「できない」と決めつけるのではなく、まずやってみる。失敗しても、様々な工夫をしてみる。上司・先輩に相談する、インターネットや書籍で解決策を探すなども有効だ。何度も工夫をして、それでも上手くいかないなら、そこでようやく「できない」として、仕事において配慮を求めることが有効になるだろう。
発達障害のある方と仕事をする立場の方の場合
一方で、発達障害のある方と仕事をする立場の方はどうすればいいのか(上司・同僚など)。
具体的な職場での対応について書くと、それだけで何本もの記事になると思うので、詳しくは書かない。
まずは、「できない=努力不足」「できない=甘え」という考えを止めてほしい。発達障害のある方は、先天的な脳機能レベルで「できない」ことがあるのだ。この医学的事実をまず受け止めてほしい。
そして、「できない」ことについては極力責めない。「やっていない」だけに見えても、本人は必死で努力している場合も難くない。その上で、原因と対応を冷静に考える。
ある発達障害のある方は職場で何度も遅刻を繰り返していた。彼の上司は遅刻する理由をやる気のなさ・意識の低さに結びつけ、毎回強く叱る方法で行動を改めさせようとした。本人も努力していたが、遅刻が改善しなかった。
彼は精神的にかなり落ち込み、部署を異動することになった。そうすると、遅刻がピタッと止まった。新しい上司は、部署異動をした当初やはり遅刻をする彼とじっくり話し合った。その結果、毎朝起きてから、一つひとつの動作を几帳面に行わないと気が済まないことに気がついた。そこで、朝起きてから出社するまでの行動をすべてリストアップし、朝やること、夜のうちにやること、やらないことに分けた。朝にやることが少なくなった彼は、無事遅刻せずに出社できるようになった。
前の上司のように本来「できない」ことを「甘え」と見なし、叱責するだけでは意味がない場合が多い。
新しい上司のように「できない」ことを前提として、どうやれば問題が解決するかを考える方が、うまくいく場合が多い。
発達障害のある方や周囲の方は、それが「特性」でも「甘え」でも冷静に対応していこう
発達障害のある方本人にとっても、周囲の方にとってもその仕事が「発達障害特性でできない」のか「単に甘えているのか」の区別は難しい。
しかし、どちらであれ、お互いが冷静に見極め、適切な対処を考えることが重要だ。そうすることで、両者にとって満足のいく職場に少しでも近づいていくことになると思う。
【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。
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