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発達障害とパワハラ(1)~なぜ発達障害者はパワハラに遭いやすいのか~

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

発達障害とパワハラの関係性について考える

2018年はパワハラ(パワーハラスメント)の話題が非常に多い。スポーツ界・ビジネス界など、未だに日本ではパワハラを容認する上司・リーダーがいることに驚かされる。

当然、パワハラは許されることではない。パワハラを受けた結果、身体や精神に不調をきたした経験を持つ方も少なくないのだろう。

そこで今回は、障害者、特に発達障害のある方とパワハラについて考えてみたい。
実は、私も何度かパワハラに遭った経験がある。そして、2度、死の直前まで追い詰められている。そしてパワハラの経験は、何年も経った今も私の心の古傷として残っている。
パワハラがいかに人間を精神的に殺していくか、私は身をもって体験しているので、パワハラで苦しむ人が一人でも減って欲しいと心から願っている。

パワハラが人に与える傷は深い

そもそも、パワハラとは何か?

厚生労働省の定義によると、

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

🔽 (引用元)厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」

https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf

とある。

大切なのは、「職場内での優位性」「業務の適正な範囲を超えて」だ。

職場内での優位性

人が複数集まって組織を構成する上で、力関係はどうしても発生する。上司は部下より力を持つことが多いし、また古くから会社に所属する人は新しく所属する人より社内の力が強いことが多い。
このような職場での力関係は、相手に苦痛を与えることが容易である。

業務の適切な範囲

パワハラが問題になるのは業務の適正な範囲を超えることだ。逆に言うと、業務の適正な範囲内であれば、業務命令になることが多い。例えば、上司からの命令が嫌だったとしても、それが業務として合理的であればパワハラにはならない。

パワハラは人の心に大きなダメージを与える。
発達障害のある私の友人も、数年前にパワハラに遭ったことがある。それまではなんとか仕事をしていたのであるが、精神的のバランスを崩して退社に追い込まれた。精神科に通い、なんとか社会復帰を目指しているがパワハラの傷は深く、社会復帰に至るまではもう少し時間がかかりそうだ。

説明が回りくどくなったが、上記を理解しておくと、これ以降の文章が分かりやすくなると思う。その上で、本題に入りたい。

発達障害当事者がパワハラに遭いやすい理由とは

まず発達障害当事者はパワハラに遭いやすいのか?
答えは「Yes」だ。パワハラに遭いやすいと言える。

理由は2点ある。

(1)スケープゴートになりやすい

(2)上司側が適切な範囲を超えやすい

(1)スケープゴートになりやすい

組織・個人が健在であるときにパワハラは起きにくい。しかし、経営が苦しくなったり、個人の状況が悪くなったりすると、組織全体・個人にストレスがたまる。
そのストレスを誰かにぶつけようとする人は残念ながらいる。

そのストレスをぶつける先として、発達障害当事者は選ばれやすいのだ。
つまり、ストレス発散のための「スケープゴート=いけにえ」にされる訳だ。

なぜ発達障害当事者が選ばれやすいのか。それは、発達障害当事者が攻撃されやすい特徴を備えているからだ。
発達障害当事者にはできないことが多い。そのため、仕事で周囲に迷惑をかけてしまうことがどうしても出ることがある。迷惑をかけてしまうのは、先天的な脳機能が原因だ。しかし、迷惑をかけているという事実がある。

迷惑をかけたことに対し、パワハラを行う人は「努力不足」などとレッテルを貼り、相手に対し攻撃を仕掛ける。パワハラを行う人はほとんどの場合自覚していないが、パワハラを行う真の目的は自分のストレス発散だったり、自分が正義であることを確信するためであったりする(正義を感じているとき、脳は快感を感じている)。

私が以前パワハラにあったある上司は、パワハラを行うタイミングが決まっていた。それは、その人が忙しいときだ。暇なときは陽気なのだが、忙しくなると、些細なことで暴言を吐かれたり、何時間も説教をされたりした。

彼は「お前のため」だと何度も言っていたし、心からそう思っていたみたいだ。しかし、忙しいタイミングだけ暴言を吐く時点で、信じることができなかった。
念のため、はっきり言っておくが、どんなに理由をひねり出そうとも、パワハラと言われる人がしていることは人を痛めつけているだけであるし、現在の社会で許されることではない。

(2)上司側が適切な範囲を超えやすい

パワハラは「業務の適正な範囲を超えて」いることが重要だ。発達障害当事者は仕事上でうまくいかないことが多い。上司はそれに対して適切な対策を講じることが求められる。その一つの手段がフィードバックだ。フィードバックは本来冷静であることが求められる。

だが、なかなか改善が見られない場合、上司側が冷静でいられなくなり、感情的な意見を言ったり、仕事をほとんど取り上げたりするなど極端な手段を取る場合がある。
なかなか改善が見られないのは、発達障害特性によるものであるが、努力不足とみなされる点は(1)と共通している。

しかし、(1)と全く違う点もある。(1)はストレス解消といった上司側が自分の利己的な欲求を満たすために行われる。(2)は行き過ぎてしまっただけになる。

もちろん、行き過ぎてしまっただけであろうが、パワハラに遭った人の心を大きく傷つけることになるので、許されるべきではない。

発達障害当事者がパワハラに遭ったときはどうしたらいいのか

このように、発達障害のある方は、どうしてもパワハラに遭いやすい。

では、パワハラに遭ったときはどう対処したらいいのだろうか?
それは次回の記事、《発達障害とパワハラ(2) ~パワハラ時の対応~》で見ていく。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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