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発達障害とパワハラ(3) ~自分がパワハラ側に回らないために~

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

《発達障害とパワハラ(1)~なぜ発達障害者はパワハラに遭いやすいのか~》

《発達障害とパワハラ(2) ~パワハラ時の対応~》

前々回・前回の記事では、発達障害のある方がパワハラを受けるという前提で、パワハラへの対応について見てきた。

しかし一方で、同時に発達障害当事者は意図せずパワハラ側に回る可能性も低くない。

権力のある立場で無自覚に己の正義を振るってしまう……パワハラの恐ろしさ

パワハラは「自分は正しい」という思いのもと、無自覚にやってしまっているケースが多い。
発達障害のある方も無自覚にパワハラ側に回ることがある。

アメリカ大統領で、奴隷解放のために力を尽くしたことで知られる、リンカーンの名言に、「本当に人を試したかったら、権力を与えてみることだ。」という言葉がある。

権力がない時は、相手に対して下手に出ざるを得ないのでパワハラの加害者になりにくい。
しかし、いったん権力を持つと権力を使うことができるようになるので、パワハラを行うことができる環境になる。
そして、権力を持つことで、共感性が低下しやすいことも分かっている。この共感性の低下は、パワハラの大きな原因になる。

私自身の反省を一つ。私はいくつかの大学で非常勤講師を務めている。学生の単位をコントロールすることができる、権力のある立場だ。
何年もやっているが、ある年のアンケートで「先生の態度がひどい」と何件か書かれた。今まで「先生が熱心」などと、私個人の態度については高評価であることが多かったし、自分は何も変わっていないつもりだったので、なぜそのような評価になるのかが分からなかった。

ある時、同僚講師からも学生対応が適当になっていると言われ、衝撃を受けた。私自身パワハラを受けた経験があることから、立場が上になる時はできるだけ丁寧に接するように心がけてきたつもりだった。しかし、いつの間にか立場が上になると態度が大きくなることに驚いた。
それ以来、私は講師として全ての受講者に対してできるだけ対等でオープンな関係になるように強く意識するようになった。

このように、権力を持つと、知らず知らずのうちに人を攻撃する立場に回ってしまうことがある。

発達障害傾向のある方がパワハラを行ってしまうときの理由とは

特に、発達障害のある方、発達障害傾向のある方は、権力を持った際に特に注意する必要があると思う。

理由は、

(1)努力の反動

(2)特性の影響

の2点だ。

理由1:努力の反動

発達障害のある方、発達障害傾向のある方は、社会適応するために非常な努力をされてきた方が多い。とても辛い思いをし、なんとか社会適応してきたという経験を持つ。

自分が努力をしてきたという思いが強い分、新たに入ってきた人が「努力不足」と思うと、怒りを感じたり、不当だと感じたりすることがあるようだ。それがパワハラの原因になることもある。

この努力の反動は、私自身にも言え、新たに仲間になった方が適切に努力していないと思うと、その人を責めすぎる傾向にあるらしい。
私自身は適切に指導しているつもりであったが、これも仲間から言われて初めて気がついた。

理由2:特性の影響

発達障害の特性からもパワハラに繋がりやすい。
ASD(自閉症スペクトラム・旧アスペルガー症候群)傾向のある方の場合、相手と関係性を築いていくことが難しい場合がある。信頼関係がある相手からのフィードバックは適切に受け止めても、信頼関係のない相手からのフィードバックは受け止められず傷つくことは珍しくない。ASDの方の中には表情に乏しい方もいるので、こちらとしての意図はなくても、無表情での厳しいフィードバックをすることで、攻撃をされたと受け止める方がいても不思議ではない。

また、ASD傾向のある方の場合、想像力が人と異なる場合もある。自分の対応が、相手にどのような影響を与えているかを考えずに行動すると、悪意はなくても部下を傷つける可能性がある。

一方、ADHD傾向のある方の場合、衝動性が問題になる。権力のある側は、相手に対して怒りをぶつけることが可能だ。だからこそ、感情を抑制することが求められる。しかし、衝動的が高い方の中には、感情をコントロールすることが苦手ですぐに怒ってしまう方もいる。感情的に怒ることで、人間関係を崩し、裁判などでは業務の適切な範囲を超えていると判断されやすい。

このように発達障害傾向があることで、無自覚のうちにパワハラを行う側になる可能性がある。

パワハラを行う側になるということは、相手を傷つけていることになる。
また、会社に通報され処罰を受ける可能性や、刑事裁判・民事裁判につながる可能性が否定できない。

パワハラは身近に存在することを覚えておこう

どこからがパワハラか。それは非常に難しい問題だ。パワハラの定義内にある「業務の適切な範囲」を超えるかどうかがポイントになる。
だが、それは組織文化など様々な要素に影響されるので、明確な基準はない。

組織内で権力を持つ発達障害傾向のある方は、自分が周囲を傷つける可能性があるということは常に知っておこう。自分が加害者にならないためにも。

このように、パワハラは意外と身近に存在している。
発達障害のある方が、パワハラをされる側にも、パワハラをする側にもならないことを、強く願っている。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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