発達障害を暴露する・されること(アウティング問題について)
【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。
LGBT・性的少数者の大学院生に対して、本人からの了解がないままに同級生が周囲に暴露し、結果的に暴露された大学院生が自殺した事件があった。
この事件をニュースで見たとき、私の頭に一つの光景が思い出された。
それは私がある企業に勤めていた時のこと。
私は上司に発達障害があることを伝えていた。しかし、上司からの配慮はなく、理解しようとすらしてもらえなかった。
ある時、私の発達障害特性からミスをして、顧客に謝りに行く必要が生じた。上司がついてきてくれた。
そして、先方担当者の前で、上司は私を指差して言った。
「こいつは発達障害っていうのがあって、ミスが多いんですよ。私が今度から注意しますから、今回は勘弁してやってください。」と。
その謝罪はうまく言った。そういう意味では効果のあった言葉だったのかもしれない。
上司に悪気はなく、目の前の問題を効果的に収めるために言ったのかもしれない。
しかし、私の心を大きく傷つけた。そしてモヤモヤした。
そのモヤモヤはその企業にいる間、ずっと続いた。今も時々思い出してはモヤモヤする。
他者の了解なく秘密を暴露(アウティング)することは許されない
このように、本人からの了解がないままに他者の秘密を暴露することを「アウティング」と言うそうだ。主に、性的少数者の文脈で使われることが多いらしい。
しかし、発達障害のある方に対するアウティング問題も、実は潜在的に少なくはないのだろうかと私は思っている。
性的少数者の方と発達障害のある方では、アウティングの質は違うのかもしれない。ただ、どちらにしても暴露された側を傷つけるという点では同じだ。
自分から発達障害があることをオープンすることについては、過去の記事「発達障害をオープンにする」に書いたことがある(ちなみに、その記事の上司は、今回の記事の上司とは別人だ)。
私は自身に発達障害があることについては、かなりオープンにしている方だと思う。でも、そんな私でも、他者からこちらの許可なく暴露されるとかなり傷つく。
自ら公開することと(カミングアウト)と、他者から同意なく公開されること(アウティング)では、当事者からすると全く意味が違う。
アウティングは決して許されることではない。
では、アウティングをするのはどんな方が多いのだろうか。悪気のあるアウティングと悪気のないアウティングがあるが、前者はそもそも困らすことを目的としており、数少ないと思うので(そう信じたい)今回は触れない。
問題は、悪気なくアウティングする方の存在だ。相手を傷つけるつもりなく発した不用意な一言が、相手を大きく傷つけるのだ。
では悪気なくアウティングをしてしまう方はどんな方が多いのだろうか。
発達障害に限って考えてみたい。
悪気なくアウティングをしてしまう方って?
発達障害のことを知らない方
まずは、当然のことながら発達障害に対する理解がない、もしくは少ない方だ。
これらの方々は発達障害のことを「知らない」から、その苦しさ、その生きづらさを知らない。
そのため、深刻に考えずについ暴露してしまう。
少数派経験のない方
アウティングをしてしまう方の2番目は少数派経験のない方だ。この視点は案外見落とされていると思う。
外国で住んだ経験がある方は、周囲の多数派に合わせる経験をしている。性的少数者の方や、障害・難病がある方など、他者とは異なる特性・体験がある方も周囲との違いを自覚せざるを得ない。
これらの人は、少数派であることとはどういうことかを体感しているので、安易な行動を取ることは少ない。
一方で、少数派として苦しんだ経験がなく、その苦しさに思いが至らない人もいる。
秘密を公開することの深刻さを想像できず、暴露などの形で自然と人を傷つけてしまう。
余談だが、無自覚でのパワハラが多いのは、その企業で大きな失敗なく出世していった人だそうだ。当てはまる方は、特に注意してほしい。
このように、身近に性的少数者の方がいる方だけではなく、身近に発達障害のある方もいる方も、知っている場合は十分に気をつけてもらいたい。あなたの安易な一言が、近くにいる人を大きく傷つける可能性もあるのだ。
難しいことではない。言わなければいいだけだ。
アウティングを受けた発達障害当事者はどうすべきか
では、アウティングを受けたら発達障害当事者はどうしたらいいのか。
まず、出来るだけその場で抗議をした方がいい。
抗議をしないと、本人は悪いことをしたと気づかないことが多いからだ。
私に発達障害があることをアウティングされたとき、抗議ができなかった。
その上司との人間関係がこれ以上悪くなることはしたくなかったからだが、抗議しなかったことを今も後悔している。
元上司は、私がそのことで傷ついていることを未だに知らずに、のうのうと暮らしている。
自分で抗議をしにくい場合は、周囲の信用できる人に相談した方がいいだろう。
場合によってはうまく対応してくれることもあるかもしれない。
日本社会では、多様性が認められるようになってきてはいるが、まだまだ差別の根は深い。
まだまだアウティングは深刻な問題になり得る。
【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。
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