企業の採用担当者が発達障害のある学生を面接する際の注意点
【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。
企業の採用担当者が発達障害のある学生を面接する際の注意点について書いてみたい。
どのような状況かによって内容が異なるが、今回は応募学生に発達障害があることが企業に伝わっている場合を想定したい。例えば、障害者雇用の場合が当てはまる。
発達障害のある学生は入社すれば配慮が必要になる一方で、うまく適応できれば高い業績をあげることも少なくない。
そのため、面接官の責任は重くなる。
では、面接官はどうすれば、応募してきた学生の伸び代や活躍ができそうなポイントを見抜くことができるのだろうか。
“具体的にどんな質問をするか”は面接を日常で行なっている人事の方々は既に詳しいだろう。
そこで、発達障害当事者+就職活動支援者(+ときどき面接官)の立場から、面接でどんな工夫ができるのかを考えてみたい。
面接で発達障害のある学生の伸び代・活躍ポイントを見抜くための工夫
発達障害があることを前提とする場合、面接では障害特性や必要な配慮を話題にせざるをえない。
また、できること・できないことを具体的に聞き出す必要がある。
発達障害のある学生に合った活躍ポイントを探そうとするほど、それらを聞き出すことは重要になる。
そのため、発達障害のある学生の面接は、一般学生の面接と比べて弱みの面での自己開示を求められる。
弱みの面での自己開示は、一般的には簡単ではない。特に、発達障害のある方は弱みの面で様々な辛い思いをしてきていることが多い。自己開示をすることに勇気が求められるのだ。
面接で応募学生にうまく自己開示をしてもらえないと、障害特性やできないことについての質問では表面的に終わりがちだ。
その表面的な情報で、採用の可否や配属を決定することは、採用のミスマッチにつながりやすい。
では、短い面接時間で自己開示をしてもらうためにはどうすればいいのか。それは、
面接官が受容と共感を取る姿勢
発達障害特性や配慮についての質問の意味を伝えること
が重要だと思う。
面接官が「受容と共感」の姿勢を取り続ける
まず、面接官が「受容と共感」の姿勢を取り続けることについて。
「この面接官には何を言っても大丈夫。むしろしっかりと伝えた方が、適切に判断してくれる。」
という信頼感を応募学生に持ってもらえると、本音を話してくれるようになる。
そのため、話をしっかりと聞き、受け止めることが必要になる。
大学生から「面接官の態度が悪かった」という話を聞くことは珍しいことではない。
私も企業から委託を受けて面接官をすることがあるが、1日何人もの学生を相手にすると疲労が溜まり、対応がおざなりになりそうなことは理解できる。ただ、おざなりな態度では学生の自己開示は期待できない。
発達障害特性や配慮についての質問の意味を伝える
次に、発達障害特性や配慮など、弱みに関する事項を聞くときに「なぜこのような質問をするのか」を伝えることも重要だ。
学生から「弱みについて根掘り葉掘り聞かれたので、面接がうまく行かなかった」という話を聞いたことがある。
面接官の立場からすると、弱みが仕事にどのような影響があるのかフラットに聞きたかったのかもしれない。しかし、学生は脅威を感じていた。脅威を感じると防衛が働き自己開示が期待できなくなる。
「この質問は、◯◯さんが弊社で働くとして、◯◯さんにとっても周囲の方々にとっても、気持ちよく働くことができる方法を探すために聞きます。」
など、質問の意図を明確にすることで、弱みの自己開示を促しやすくすることができる。
発達障害のある学生の面接で、入社後のミスマッチを生まないために
日頃から面接官をしている方からすると、今回書いたことは当たり前のことなのかもしれない。しかし、学生の話を聞いていると、その当たり前のことができている面接官は少数であるように感じている。
学生に面接の感想を聞くと、「緊張した」という反応がほとんどだ。そして、話したいことを話すのではなく、話すと評価されそうなことを学生は面接で話している。
特に発達障害のある学生の面接において、このような上辺だけのやり取りは入社後のミスマッチを生む可能性が高い。このミスマッチにより、入社後に企業も応募学生も不幸になる可能性が高い。
発達障害のある学生は職場にうまく適応すると、大きな貢献をすることが珍しくない。一方で、職場にうまく適応できないと早期離職につながる恐れがある。
面接は大変な仕事であることは間違いない。疲れてくると事務的な対応に終始しやすくなる気持ちもよくわかる。
弱みの面も含めてしっかりと学生を見極めるために、学生が自己開示しやすくなるような工夫をしていくことが面接官に求められる。
【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。
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