飽きっぽさ、好奇心旺盛さを自分のキャリアに取り込む方法とは?
【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。
今日はADHDのある方に、一冊の本を紹介したい。キャリア形成の参考になる本だと思う。
どんな本かはもう少し後に説明するとして、まずADHDのある人が働く上でのデメリットを考えてみたい。デメリットとされる点は様々あるのだが、今回焦点を当てるのは「飽きっぽさ」だ。
飽きっぽさはキャリア形成で不利に働く
ADHDがある方は刺激に反応しやすいという特徴がある。好奇心旺盛で、多くのことに興味を持ちやすい。それが、一方では飽きっぽさに繋がる。趣味が飽きっぽいのであれば問題が起こりにくい。しかし、仕事が飽きっぽいことによるデメリットは大きい。
仕事に飽きて次に全く別の仕事をすることは、キャリア形成において不利とされる。確かに、今まで学んできたことをリセットして一からやり直すので、一人前になるまでにまた時間がかかる。
転職市場を見ても、やっていることをコロコロ変えている人は評価が低く、長く一つの会社・一つの職種で経験を積んだ人の評価が高い傾向にある。
このように、ADHDのある人が好奇心のおもむくまま、全く新しい仕事をしていくことは一般的には不利とされる。
これは私自身においても実感がある。
私も御多分に漏れず、飽きっぽい。そして仕事がコロコロ変わる。
私のキャリアをざっと書くと、
→金融営業
→ベンチャー企業の管理担当(経理・法務・人事など)
→小・中学生の塾講師(社会)
→大学生の基礎学力支援講師(主に数学・算数)
→大学生のキャリア支援講師(キャリア教育・スキル教育な・就職活動支援など)
→企業・行政研修講師
というキャリアを歩んできている(なお、講師になってからは複数が同時進行している)。
講師というキャリアを長く歩んできているので、傍目から見ると継続的なキャリアに見えるかもしれない。
だが、実態は違っていて、例えば小・中学校の塾講師の経験は、大学のキャリア支援講師や企業・行政の研修講師として全く評価されない。
逆に、企業・行政の研修講師の経験は小・中学校の塾講師として全く評価されない。
長く一つのテーマをやった方がいいのは重々承知しているのだが、なんせ飽きるのだ。新しいテーマで新しい研修・講義を作らないと飽き飽きしてくる。
講師を10年ほどやっているが、この10年で私ほど広いテーマで登壇している人はおそらくほとんどいないと思う。
このように、私はキャリア上やっていることがコロコロ変わっている。これは私にとって大きなコンプレックスだった。一つのことを突き詰めるのではなく、コロコロテーマを変えるので器用貧乏だと、自分で自分を責めていた。
そんな時に、私が読んで大いに勇気付けられた本が今回紹介する本だ。
エミリー・ワプニック(著)「マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法」(PHP研究所・2018)という本だ。
マルチ・ポテンシャライトとは?
この本では多くのことに興味を持ち、取り組む人を「マルチ・ポテンシャライト」と呼ぶ。そのマルチ・ポテンシャライトの長所、タイプ、注意点が書かれた本だ。
まさに私はマルチ・ポテンシャライトだ。そして、ADHDのある方のうち一定割合はマルチ・ポテンシャライトではないかと思う。
この本の前半部には、マルチ・ポテンシャライトの強みが5つ書かれている。
私はその中で、「学習速度が速い」「適応能力が高い」という要素が当てはまるように感じる。興味を持ったことに対して1から学ぶことに慣れており、知識を吸収する速度が速く、新しいテーマでも研修資料を比較的簡単に作れるのだ。
このように、マルチ・ポテンシャライトの強みを知ることは、自分が短所だと思っていたことが長所であることに気がつくので自己肯定感の向上につながる。
そして、この本が何よりも素晴らしいのは、マルチ・ポテンシャライトとして現実的にどのように仕事をしていけばいいのかが書かれている点だ。
マルチ・ポテンシャライトとしての生き方は社会では不利とされるが、この本では具体的にどう対応していけばいいのかが書かれており、それが非常に参考になる。
私が参考になったヒントを一つ書くと「何に取り組むべきか選ぶ」という点だ。有限である時間をいかにどう使うかの参考になった。
以上のように、この本はマルチ・ポテンシャライトの傾向がある方にとって、勇気づけになるだけでなく、実際にキャリアを形成していく上のヒントをたくさん得られる。
この文章を読んで自分は全く関係がないと思った人は、読む必要がない。しかし、少しでもマルチ・ポテンシャライトかもしれないと思ったからは是非この本を読んでほしい。
また、ADHDがありキャリア形成に悩んでいる方も、読むことで参考になる点があると思う。
日本は残念ながらマルチ・ポテンシャライトという生き方があまり広まっていない。だが、自分らしく生きるためにはマルチ・ポテンシャライトという生きる道がある。
自分がマルチ・ポテンシャライトとして生きてきたんだと知った時、私の生きづらさはかなり減った。同じような悩みを抱えている人がこの本を読むことで、生きづらさが減るのであれば嬉しく思う。
【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。
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