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発達障害のある方が職場に定着するために必要なこと(1)~当事者視点から~

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

発達障害のある方が職場に定着するためにはどうしたらいいのか。これは当事者にとっても企業にとっても重要な問いだと思う。そこで、今回は発達障害のある方の職場定着について書こうと思う。

と、テーマを決めたところで気がついた。私は職場に定着した経験がない。私は社員として3社を経験したが、1社あたりで最長2年しか勤めた経験がない。1社は出向になったので仕方がないとして、あとの2社では職場に定着できなかった。
というわけで、職場に定着できずに最終的にフリーランスを選ばざるを得なかった私が、自分の体験を踏まえて、当事者目線・企業目線から職場に定着するために何が必要だったのかを考えてみる。

今回は発達障害のある方が当事者として定着するための方法を考えたい。

発達障害のある方が職場定着するために

発達障害のある方が定着するために大切なのは「居場所作り」だ。
発達障害のある方は、仕事場で何かとストレスが溜まりやすい。業務に対処できなかったり、人間関係で苦労したりと、本人がいくら努力しても特性上問題を起こしてしまうこともある。
そんなストレスが溜まった時、一時的にでも避難できる場所があると少し息抜きができる。長く働くためには、この少しの息抜きが重要なのだ。
物理的な居場所、精神的な居場所、業務での居場所※1など、どこでもいいので自分が逃げ込める場所を作ろう。

私が2社目でパワハラを受けていた際は、どこにも居場所がなかった。
そのため、急速に精神的な状況が悪化し、特急列車に飛び込みかけるなど、命の危機とも言える状況まで追い込まれた。あまりに私の精神状態が悪化したのを受け、部署異動が行われパワハラを行う上司から引き離された。次の部署では気にかけてくれる人がおり、少しは息抜きができた。しかし、パワハラで負った心の傷が深すぎて、入社から1年半ほどで退職した。

その後私はもう一度パワハラを受けることになる。しかし、次は居場所を作ることができた。仕事仲間のうちの数人が悩みを聞いてくれたり、同調してくれるなど精神的な支えとなってくれた。
また、講師業なので様々な場所で講義を行うが、講義を行う大学の方々に頼りにしてもらえることは自分の業務での居場所ができたように感じた。そのため、辛い状況ではあったが耐え抜くことができた。

このように居場所を作ることは、発達障害のある方が定着するためには重要だ。特に、精神的な居場所を確保することが必要になる。
精神的な居場所とは、受け入れ、味方してくれる人のことだ。

職場定着に必要な精神的居場所と発生するリスクを回避するには

自分のことを応援してくれる人、自分のことを暖かい目で見守ってくれる人を職場の中で探すことができれば、その人たちが大きな支えとなり仕事を続けていきやすくなる。
では、どんな人が精神的な居場所となってくれやすいのか。それは、以下の条件のうちいくつかを満たす人だと思う。

(1)仕事での関わりが多くない人
(2)ある程度頻繁に顔をあわせる人
(3)共通の話題がある人

まず、仕事での関わりが多いと発達障害特性などで迷惑をかけることがあるかもしれず、冷静に関わることができないケースが発生しやすい。一方で、あまりに顔を合わさないのであれば味方にはなってくれにくい。また、共通の話題(趣味など)があれば話すきっかけを作りやすい。その方の性格や価値観にもよるので一概には言えないが、この3つの条件を多く満たしている方ほど、応援団として精神的な居場所になってくれる可能性が高い。

しかし、そのような精神的な居場所となってくれる方が、急にそっぽを向いて味方をしてくれなくなる時がある。私にも何度かあった。その原因としては、

(1)依存しすぎて、相手を疲弊させた
(2)味方しても無駄と思われた

というあたりが多いように思われる。

発達障害のある方は『(1)依存しすぎて、相手を疲弊させた』が一番多いのではないだろうか。味方をしてくれる方が少ない環境の中で、味方をしてくれる方に頼りっきりになり依存しすぎるのだ。

私は味方をしてくれた人に依存しすぎた経験がある。
最初は味方をしてくれていても、途中から明らかに迷惑に感じていようだ。最後には、無視されるようになった。辛い経験だった。別の人から後日、私が依存しすぎたために、その方が疲れ切っていたとことを教えてもらった。今では申し訳なかったなと思っている。
逆に、仕事上の付き合いのある方から依存されたこともある。こちらが忙しくてもひっきりなしに悩み相談をされ、こちらがノイローゼになるかと思った。

依存しすぎて相手を疲弊させないためにはどうしたらいいのか。それは依存先を分散することである。一箇所に依存すると相手を疲弊させるため、プライベートも含めて精神的な居場所を複数作ると、特定の人に依存しなくて済むようになる。

『(2)味方しても無駄と思われた』についてだが、精神的な居場所となってくれる方は、善意で色々なアドバイスをしてくれるだろう。しかし、いつまでたってもアドバイスを実行しないと「こいつに話しても無駄だ」と思われる。
できなくてもいい。アドバイスを受けたことについて、まずはチャレンジして、それから報告しよう。

精神的な居場所になってくれる方は、職場に定着するためにとても重要な存在だ。いい関係になれるよう、自分から努力しよう。

では、企業側から見たとき、発達障害のある方が職場に定着してもらうためには何をすればいいのだろう。
それは「発達障害のある方が職場に定着するために必要なこと(2)~企業目線から~」で。

 

※1 業務での居場所については、「発達障害のある方が仕事で生き残るために大切なたった一つのこと

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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