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発達障害のある大人と自己肯定感(2)~自己有用感をあげる~

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

発達障害のある大人と自己肯定感(1)~なぜ発達障害があると自己肯定感が下がりやすいのか~」では、発達障害のある大人は社会の中で自己肯定感を持ちにくいことを書いた。
しかし、生きづらい現状がある中でも自己肯定感を持つことはできる。今回から発達障害がある大人が自己肯定感を高めていく方法について考えたい。

前回、自己肯定感を「自分が自分であることに満足し、価値ある存在として受け入れられること」な感覚と書いたが、もう少し細かく見ていきたい。
「自分が自分であることに満足し、価値ある存在として受け入れられること」と思えるためには様々な要素が複雑に絡み合っている。
例えば、”自分はできている”という感覚や、”こんな自分にも価値がある”などといった要素が必要である。

前回も取り上げた『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』※1では自己肯定感を、自尊感情、自己受容感、自己効力感、自己信頼感、自己決定感、自己有用感に分類している。これらを満たすことで、自己肯定感が養われるということだ。
私は発達障害のある方は、特に自己受容感、自己効力感、自己有用感が大事だと考えている。そのため、この3つについて、もう少し詳しく説明したい。

発達障害のある大人に大切な自己有用感

まずは自己有用感について説明したい。自己有用感とは一言で表すと「私は誰かの役に立っている」という感覚だ。

人は役に立つことで幸福感を感じることができる。これは様々な研究の結果から明らかだ※2
また、「嫌われる勇気」※3という、アドラー心理学について書かれた本が以前大ベストセラーになったが、アドラー心理学による幸福の3条件は
(1)自己受容
(2)他者信頼
(3)共同体感覚

となっている。
この(3)の共同体感覚とは、自分に居場所がありその中で貢献することであるが、自己有用感と重なる部分が多い。他者に対して貢献し、役に立つことは自己肯定感につながり、幸せにつながるのだ。

もちろん仕事で人の役に立つことは、非常に気持ちいい。仕事でお客さまや同僚から「ありがとう」と言われて嬉しかった経験を持つことも多いだろう。
しかし、生きづらさを抱えていると、仕事で「ありがとう」と言われる経験はないかもしれない。私は仕事が全くうまくいっていなかった時、お客様からも怒られてばかりだし、同僚や上司からも冷たい目で見られていた。
そのため、どんなに頑張っても「自分が役ににたっている」と思うことができなかった。

自己有用感の高め方

しかし、大きな役に立つ必要はない。小さな役に立つことも自己有用感を高めることにつながるのだ。手軽に自己有用感を高める方法は2つある。
(1)見知らぬ人へのちょっとした親切
(2)身近な人への5分の親切

の2つだ。

(1)見知らぬ人へのちょっとした親切

これは、生活していると簡単にできる。例えば、エレベーターで「開」ボタンを押し続ける、電車で席をゆずる、買い物をした時にレジの方にお礼を言うなどだ。
どれもちょっとしたことだが、役に立っている。ある禅僧の方の言葉に「陰徳を積む」という言葉がある。
「陰徳」とは、誰にも見えていないところで行う徳のある(役に立つ)行動だ。
その逆が「陽徳」で、知っている人から見られているところで行う役に立つ行動だ。
陰徳を積むことは重要とされているが、それは無私の心で陰徳を積むことが自己有用感を高めることに繋がるからだと思われる。
発達障害のある方で、ボランティアでゴミ拾いをしている方を私は何人か知っている。
とても素晴らしい行動だと思うし、おそらく意識していないだろうが自己有用感を高め、ひいては自己肯定感を高めることにつながっているのではなかろうか。

(2)身近な人への5分の親切

こちらについてだが、知っている人への親切となると大層なことをしないといけないと思うかもしれない。
しかし、5分ほどでできるちょっとした親切をすることでも先方は喜んでくれるし、自分にとっての自己有用感につながる。
例えば、私は仕事柄学生から相談されることが多い。時間があるときはじっくり聴くことができるが、時間がない時もある。
そんな時も5分だけと時間を区切って話を聞くようにしている。その5分だけでも喜んでもらうことが多い。
また、家族に対しても1日5分は親切の時間を作るようにしている。そうするだけで喜んでくれるし、人間関係もよくなる。

自己有用感を高めようとすると、大きく役に立つ必要があると思うかもしれない。しかし、ちょっとした親切でも自己有用感が高まる。
自分の自己肯定感を高めるために、自分が楽になるために、意識してちょっとした役に立つことを心がけてはみてはどうだろうか。

自己肯定感を高める要素で残っている自己効力感、自己受容についても、今後書いていきます。

発達障害のある大人と自己肯定感(3)~自己効力感を高める~

 

※1 中島 輝(著)『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』SBクリエイティブ(2019)より引用
※2 興味のある方は、ソニア・リュボミアスキー (著)『幸せがずっと続く12の行動習慣』日本実業出版社(2012)をご覧ください
※3 岸見 一郎 (著), 古賀 史健 (著)『嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え』ダイヤモンド社(2013)

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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