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(1)受容する~発達障害のあるお子さんの就活をサポートする方法~

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

お子さんに発達障害がある場合、就職活動でどうサポートしたらいいのか。これは難しい問題です。自分自身の問題ではなく、お子さんの問題ではあるだけにできることが限られ、やきもきすることが多いでしょう。

では、どのようなサポートをするのがいいのでしょうか?これは状況によって大きく変わるため、一概に表すことは難しいです。そこで今回は、お子さんが成人しており、発達障害があり、一般雇用や障害者雇用を考えているという前提で解説をしたいと思います。

発達障害のあるお子さんの就活サポート『受容する』

まず、発達障害のあるお子さんの就活サポートにおいて、最も大切なことは「受容」です。

受容する
受容とは「状況を受け入れること」です。お子さんがどんな状態であっても、それを受け入れ尊重することです。

当たり前のことではないか?と思った方がいるかもしれません。しかし、私は就職活動の支援者として日々多くの方々と接しているのですが、子ども側からすると「親から受け入れてもらっていない」と感じているケースは数多く見受けられます。就職活動自体が大きなストレスになり、その上で親からの圧力やプレッシャーによりさらにストレスが大きくなっているケースも珍しくありません。お子さんに発達障害がある場合、親からすると心配が多いため、受容ができていない割合はさらに高くなります。

親がうまく受容できている場合は、お子さんが安心感を持って就職活動をできる可能性が高まります。家族が自分をプレッシャーなく応援してくれているという感覚は、お子さんが就職活動をうまく進める際に重要になります。

というのも、就職活動は基本的に個人で進めるので、孤独になりやすいという特徴があります。ただでさえストレスの多い就職活動を孤独に進めることはかなり辛いことです。大学のキャリアセンター・就労移行支援施設のスタッフなど、支援者は基本的に受容的な姿勢ですので、そのような支援者がいれば、その孤独はある程度解消します。しかし、最も身近な存在である家族が受容して応援してくれれば、さらに安心して就職活動に取り組むことができます。

では、何を受容すればいいのでしょうか?

1)障害があるということを受容する

お子さんに発達障害がある場合は、何と言ってもまずは「お子さんに障害がある」ということを受容することが重要です。発達障害という目に見えにくい障害の場合、家族が障害を受容できない、受容したくないというケースが少なくありません。確かに「障害」に対する社会の偏見はまだまだ少なくありません。目に見えにくいという発達障害の特性上、本当に障害であるのかは専門家でも判断が難しい領域ではあります。

しかし、発達障害があることを認識し、発達障害があることを本人も家族も認めた上で就職先の選定や就職活動の方法を選んだ方がうまくいくことが多いです。例えば、ASD(自閉症スペクトラム)があると、コミュニケーションに課題がある場合が多く、面接での通過が難しい場合が少なくありません。また、発達障害のある方は全体として、入社してからうまくいかずに職場不適応を起こしやすい傾向にあります。

発達障害があることを本人や周囲が受容すると、発達障害があること前提に一緒に対応を考えることができます。障害者雇用を含めた多様な選択肢も視野に入ってきます。
しかし、発達障害であることを受容しないと、就職活動や就職後にうまくいかないことに対して、本人や周囲が、その原因を「努力不足」「やる気の問題」などの精神論で片付けてしまいがちです。そのような精神論では具体的な解決に結びつかず、行動の改善につながらない場合が少なくありません。

発達障害であるかどうかは、医者が医学的観点で決めることですので、まずはお子さんと相談し、専門医の診断を受けるところから始めましょう。そこで発達障害と診断される場合、診断されない場合がありますが、それを受容することで、まず一歩進むことができます。
また、診断が出てもご家族が発達障害を受け入れられないことがあります(私の父は未だに私が発達障害であることを受け入れていません)。ただ、そこは受け入れる勇気を持っていただきたいなと思います。

2)本人の意向を受容する

次に「本人の意向」を受容しましょう。就職活動支援をしていると、本人の意向と親の意向がぶつかっているという話をよく聞きます。確かに、お子さんにこうなってもらいたいという想いを親が持つことはごく自然なことでしょう。年齢を重ねて社会の様々な状況をご覧になっていると、お子さんの希望や選択が、若さゆえの未熟なものに見えてしまうことも、無理のないことなのかもしれません。ただ、あくまでお子さんの人生であり、少なくともお子さんが成人されたのであれば、お子さんの選択を受容し受け入れることをおすすめします(ただし、引きこもりなど社会に出ようという意思を閉ざしている場合は、問題の種類が異なってきます)。

決して、意見を言うなというわけではありません。大人同士として対等に話し合い、アドバイスや提案をすることはいいと思うのです。ただ、選択を押し付けることはおすすめできません。最後は方針を本人に決めさせることをおすすめします。

就職活動の面からしても、本人が乗り気でないのに親から応募企業を押し付けられた場合は、志望動機をきちんと作ることができていない場合が多いです。支援者がサポートすることで表面的には作れている場合もありますが、本人の意志が弱いことは面接官には何となく伝わってしまいます。

確かに、お子さんに発達障害があると、親として心配することは理解できます。ただ、お子さんのことを受容して、信頼すると、お子さんが家族に安心感を持ち、それが就職活動を行う上での安定につながってくるのです。

一方で、親が受容して信頼すれば就職活動がすぐにうまくいくかというと、必ずしもそう言うわけではありません。就職活動は本人の意識や企業との出会いの要素などがあり、簡単にうまくいくものではあリません。しかし、親の受容の姿勢は、就職活動を進める上でじわっと深い部分で効いてくるのです。

では、お子さんの就職活動について、親は具体的にどのような行動をとることができるのでしょうか?
それは次の「(2)NG行動・Good行動~発達障害のあるお子さんの就活をサポートする方法~」にてお伝えします。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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