絶対に欠かせない、大事な戦力
「彼らの戦力は当社にとってすごく大きな力です。私たちの方が支えられている。常に感謝しています」そう語ってくださったのは大阪北摂地域を中心にマクドナルドのフランチャイズを行う株式会社ベルエポック。障害のある方が多く活躍されており、障害者雇用率は5.77%(2014年)。どのような想いで障害者雇用に取り組まれているのでしょうか。マクドナルド北豊中店店長高野秀生さんにお話をうかがいました。
「できるんじゃないかな」を見つける
- Q.障害者雇用・実習受入れに取り組むきっかけや目的はなんですか?
約20年前に箕面養護学校(現:箕面支援学校)の方々と出会ったことがきっかけです。当時私が勤務していた箕面船場の店舗に、校外活動の一環で生徒さんと先生10名ぐらいのグループが食事をされていました。ちょうどその頃は、中学生の職場体験を受入れ始めた頃。支援学校でもそのような取り組みはあるのかと私からお声掛けし、その後、進路指導の先生から「就職させてほしい」というお話をいただきました。ですが、私たちも障害のある方を受入れた経験や知識もなかったので、まずは生徒さんや先生とお話をすることから始めました。私たちが学校を見学したり、逆に進路指導の先生に店舗で働いてもらったり。最初はどんな個性や特性があるのか、緊急時にどんな対応が必要なのかなどがわからず不安はありました。しかし、生徒さんたちと給食を食べるなど交流しているうちにどんどんワクワクしてきましたね。その後、実習を受入れ、3名が採用につながりました。その後、支援機関とのご縁もあって他店舗でも新たな実習や雇用が広がりました。
- Q.採用された方・実習生の仕事内容はなんですか? また、その業務はどのように発展させていますか?
まずは清掃、洗い物、ハンバーガーの調理をします。そして、採用された方はある程度仕事ができるようになると、新人に仕事を教える“トレーナー”になります。新人や実習生が入ると、そこで働いていたクルーの動きや仕事ぶりが変わるんです。「自分がしっかりしないと」「きちんと教えてあげたい」と先輩としての自我が刺激されるんでしょうね。なので、その流れから人に教えることを勉強し、トレーナーになっていきます。北豊中店では、障害のあるクルー3名中2名がトレーナーです。さらに次のステップとして、店舗の運営を担う“マネージャー”という役職があります。今まで当社内で2名がマネージャーになりました。
障害のあるなしに関わらず、まずは自信を持ってもらうこと、褒めて伸ばすことを大事にしています。仕事を始める際は、まずできることからスタートします。できることは徐々に増えますし、できないと思っていたこともできるようになっていく。「彼はここまでできればいい」と私たちが決めつけてしまうと、ご本人の成長になりません。「できるんじゃないかな」というところを見つけるようにしています。彼らの成長が止まるということは、企業の成長が止まっているということだと私は思っています。
- Q.受入れをして難しいと感じたことはなんですか?
中には意思疎通が難しい方もいらっしゃいます。こちらが伝えたことをどこまで理解しているか、反応から見て取れないこともあります。なので、繰り返し、根気よく、できていること・まだできないことを見極めていく必要があります。
また、長期定着している方のモチベーションの維持は今も試行錯誤しています。当社では長期定着している方も多く、長い方だと15年勤務しています。ですが、長く働いていても成長は緩やかなため、同じ作業を繰り返していくことになります。その中で、新たなモチベーションの種を見出していくことは難しいですね。日頃のコミュニケーションだけではマンネリ化してしまうのが人というもの。今はマクドナルドの評価システムで目標設定をして、その目標に対して「ここまでできるようになったよ」と評価をしっかり伝えるようにしています。
成長する姿が心を動かす
- Q.受入れの際に工夫・配慮・大切にしていることはなんですか?
まず、障害のあるなしに関わらず新人すべてに共通することとして、孤立させないことを意識しています。私も会話の中で「○○さんは最近△△ができるようになった」「次の目標どうしようか」とその方の話題を中心にして、周りのトレーナーやマネージャーと情報共有するようにしています。そして、人材育成に貢献してくれたスタッフはしっかり評価しています。私の関心事がそこにあるということをみんなが理解してくれているので、彼らも自発的にサポートしてくれています。
障害のあるクルーに対して特別に行ったこととしては交流の機会をつくりました。店舗が違うとクルー同士が交流する機会がありません。そこで2010年、2011年に障害のあるクルー、ご家族、店長が一堂に会するセミナーを開催しました。他店舗で「こういうことを頑張っているクルーがいる」と情報発信したんです。参加した方々の刺激になり、明らかにモチベーションが高くなって、自分の仕事や役割に対する責任感が強くなりましたね。また、できる限り、支援機関・ご家族と連携してご本人の現状を共有しながら、育成することを心がけています。大事な戦力ですからね。何か様子が違うことがあれば「最近ご家庭ではどうですか」とご家族にお電話しますし、ご家族からも「落ち込んでいるようです」とお電話いただくこともあります。状況を把握できていれば、そのタイミングでご本人に必要な対応が見つけやすくなります。
- Q.受入れをする中でよかったことはありますか?
現場スタッフのトレーニングスキルが非常に向上したと思います。相手の状況や立場を考慮した上で、より効果的に物事を伝えていく、また繰り返し根気強く続けるなど相手を思いやったトレーニングができるようになりました。「相手のために自分は何ができるのか」を自分たちで考えられる人材になってくれましたね。実習や雇用で受入れた彼らの成長する姿が、人の心を動かし、「応援したい」という気持ちを湧き上がらせるのだと思います。また、自分は人の力になっている、自分の職場が社会の役に立っている、そんな誇りを持ってそれぞれが働いてくれていると思います。毎年マクドナルドで実施するスタッフへの意識調査で、「自分の職場は社会貢献できている環境だと思いますか?」という項目の評価が当社は非常に高くなっています。
あとは、人材確保に苦戦している中で、長期定着してくれていること。やはり彼らの戦力は当社にとってはすごく大きな力です。試験期間、年末年始も常にお店を支えてくれて、絶対に欠かすことのできない存在です。私たちの方が支えられている。常に感謝しています。
- Q.今後の方針や将来像をお聞かせください。
採用については、今は支援機関やご家族からのご縁が多いです。ご家族からの紹介であっても、いったんは支援機関を通して実習を行います。将来像としては、障害者手帳を持った方が店舗の半数あるいは、それ以上の人数で運営していける店舗というのを常に思い描いています。当店も4名在籍していた頃は、ピーク時でも厨房6名中4名が障害のあるクルーで運営していました。接客が得意という方がいらっしゃれば、過半数が障害のあるクルーというのも決して難しいことではないはず。当社とマッチングした方は長期で頑張ってくださる方が多いので、今後も積極的に実習を受入れて、戦力となる方をどんどん発掘していきたいです。