いてくれるだけで社内が明るくなる
企業・団体名:西尾レントオール株式会社
http://www.nishio-rent.co.jp/
「時間がかかってもめげずに、前を向き続けて企業の門をたたいていけば、必ずどこかでマッチする会社があると思います」そうエールを送ってくださったのは西尾レントオール株式会社。国内外で建設機械、イベント用品などのレンタルや開発を行っています。2016年2月に就労移行支援事業所エンカレッジから発達障害のあるBさんを採用しました。採用までどのようなエピソードがあったのでしょうか。総務人事部 人事課 課長野﨑訓功(くにのり)さん・総務課 吉田美早紀さんにお話をうかがいました。
採用の決め手は「できる」という直感
- Q.発達障害のある方の採用に至るまでの道のり
野﨑:障害者雇用には20年以上前から取り組んできました。全国の営業所では約30名がレンタル機材の清掃を、ここ本社ビルでは2名が事務の仕事をしています。その2名の内1名が発達障害のあるBさんです。当社で発達障害のある方を採用したのはBさんが初めてです。Bさんとの出会いは当社役員の紹介がきっかけでした。Bさんは就労移行支援事業所エンカレッジを利用しており、まずはそちらの支援員と打合せをし、その後本人も交えて話す機会を設けました。エンカレッジから「実習をして、お互いに合うかどうか見極める機会がほしい」という話があり、実習を2週間行いました。実は今まで当社の採用活動は面接中心だったので、実習の受入れもBさんが初めてだったんです。Bさんにとっても初めての働く機会でしたが、挨拶やマナーなど毎日テーマをもって臨んでくれて、無事2016年2月に採用となりました。事務での採用事例もほとんどなく不安もあったので、このようなプロセスがなければ書類選考時点で不採用だったかもしれません。
- Q.採用の決め手はなにですか?
野﨑:「できる」という判断だけですね。紹介だから採用するという文化はなく、組織に合うか、仕事ができるかで判断します。その点で合格だったということです。本社には書類のデータ化やファイリングといった後回しになりがちな仕事がたくさんあります。組織としても、それらの仕事を担ってくれる人を求めていました。Bさん自身もデータ入力やファイリングは得意だと言っていて、やってもらうと本当に精度が高かったんです。指示通りきちんと仕上げてくれました。最初はスピードも求めておらず、この書類の山を実習中に片づけられたらいいなぐらいに思っていたんです。ところが、速くなっている。日に日にスピードアップしていくんです。
吉田:採用を見据えた実習だったので、入社後と同じデータ入力の仕事を用意しました。早くても1週間はかかるかなと思っていたのに、すぐ「終わりました。次何しましょう?」と報告があって……。急いで次の仕事を準備しました。正直もう少し時間をかけてくれてもよかったのにと思いました(笑)。
野﨑:素直に「すごい」と思いました。僕らの見方も変わりましたね。「実習に来たけど、することがない」とならないように仕事も多めに用意したつもりだったんです。でも全部クリアされてしまって。もれなく採用ですよね。
- Q.実習で印象に残っていることは?
野﨑:実習で1つ困ったことがありました。お昼休みの出来事です。男性陣は各々自席で、女性陣はミーティングスペースに集まってごはんを食べることが多いんです。Bさんの緊張もほぐれるようにと、みんなBさんも誘って一緒に食べるんですよね。ただ、慣れてくると、声のボリュームが大きくなっていくんです。そして内容はガールズトーク。「ここだけの話」がダダ漏れ。ごはんを食べながら、こっちまで恥ずかしくなってきましたよ。
吉田:でも、そういったプライベートな話もしてくれるのは、心を開いてくれているということなのかなと思います。
- Q.現在のBさんの仕事内容、仕事の様子はいかがですか?
吉田:契約書類のデータ入力が中心です。単純な入力ではなく、ある程度判断が必要な作業です。でも、わからないことはきちんと相談してくれるので、適当な判断で進めるということはありません。安心してお任せしています。初めの頃はわからないことをその都度質問されていたんです。5分に1回は質問があったかもしれません。わからないことはまとめて質問するようにとお伝えました。今ではわかる書類とわからない書類に分けて、わかる書類から先に入力。わからない書類には不明点を付箋に書いてまとめて聞いてくれるので、私も仕事がしやすくなりました。でも、付箋に書くというのは私からアドバイスしておらず、自分で工夫していました。大きな変化だと思います。
野﨑:実習前にエンカレッジからBさんの特性を聞いていました。周りのことを気にしない、冗談が通じない、自分の話したいことは話し出したら止まらない……正直どんな人が来るのかと不安でしたよ。それでも受入れると決めた以上はと覚悟しました。でもいざ来てみると、イメージしていた人と全然違うんです。まだBさんがどんな人かつかめていない間は1日中心配していましたが、今となっては杞憂だったなと思います。
真正面から向き合う
- Q.成長を感じるポイントはどこですか?
野﨑:実習初期と比較すると、会社での1日の流れをつかみだしていると思います。例えば、会社には何時から何時は仕事、何時から何時は休憩とルールがある。だから仕事の時間は仕事以外のことをしてはいけないと思っていたんです。でも、仕事中でも私語もあれば、お茶を飲む時間もあるわけです。そういうのが最初はわからず、水を飲んでいいのかも質問していたんです。水は机の上に置いて、好きなときに飲めばいい。他にも、お手洗いに行くときも毎回報告しなくていいなどお伝えしました。今では、一つ一つ吸収して、周りの様子も見て、応用していると思います。仕事中でもプライベートなことを話すのはダメなことではないと理解しだして、楽しい職場を自分でつくろうとしています。ただ、そこで課題になるのが、話し出すと止まらないこと。周りもどこで話を切ればいいのか悩むときがあるようです。どれぐらい話していいのか把握するにはまだ少し時間がかかりそうですね。なんでもかんでも一気にするのは難しいことなので、ゆっくり成長してもらえればと思っています。
- Q.“発達障害”のイメージは変わりましたか?
野﨑:変わりましたね。受入れるまでは会話が成立するだろうか、一般常識に疎いんじゃないかとかいう心配がありました。
吉田:今はBさんに発達障害があるということをたまに忘れて、普通に過ごしています。障害特性ゆえに、あまり周りを見られないと言っていますが、結構気遣いもできるんですよね。たとえばお土産のお菓子をみんなで分ける時。1つ余ったときに「Bさん食べてもいいよ」と言っても「みなさん食べられましたか?」とみんなのことを気遣っていました。
野﨑:すごく純粋なんだろうと思います。言葉遣い一つとっても「こういう時は、こう言うんだよ」と教わったことは素直に受入れてきっちり守るんですよ。逆に周りがゆがんでいるんじゃないかという気になりますよね(笑)。勉強になります。
吉田:本当にBさんから学ぶことはすごく多いですね。
- Q.受入の際に工夫・配慮・大切にしていることはなんですか?
吉田:「自分に発達障害がある」と周囲に知ってもらう方がBさんは安心するようです。あまり言わない方がいいのかなと私たちは思っていましたが、本人に聞くと「むしろ知ってほしい」と。なので、各フロアの上長にBさんのことを伝えて、社員に周知してもらうようにしました。
野﨑:先日社員旅行で淡路島に行ったんです。すごく楽しみにしている反面、普段仕事で関わらない人は自分の障害のことを知らないんじゃないかと不安がっていました。なので、みんな知っているから安心してと伝えました。
吉田:まだ就職も決まっていない、実習の頃から社員旅行をすごく楽しみにしていたんです。社員旅行の話になると目をキラキラさせて。つられて私も楽しみになっていました。当日は運転手の後ろの席を早くからとってスタンバイしていました。宴会の後、希望者だけの二次会も「いろんな人とコミュニケーションとりたい!」と参加して、本当に楽しそうにしていましたね。
野﨑:Bさんへの配慮も大切ですが、担当者への気遣いも大事だと思います。基本的に吉田が業務指導やチェックをしています。でもすべてが吉田の負担になってはいけない。なので、吉田を通さなくてもよい指示は、みんな直接Bさんに伝えるようにしています。みんなが真正面からBさんに向きあってくれていますね。
- Q.実習の受入れをする中でよかったことや、周囲の変化などありますか?
吉田:社内の雰囲気がすごくよくなりました。Bさん自身が明るい性格なので、いてくれるだけで社内が明るくなりますね。
野﨑:雰囲気がよくなって、社員同士の会話も増えているかもしれません。逆に必要のない会話を止めたり、話す内容を変えたりという効果も出ています。というのは、Bさんは冗談をそのまま受け取ってしまうんです。発言・行動一つとっても、周りが今まで“なぁなぁ”でやってきたことが、本来職場にはふさわしくないこともあったわけです。Bさんの目と耳を意識して、ちょっと言動を変えようという意識が出ています。そういう面で、職場秩序も向上していると思います。
- Q.受入れにあたっての将来像や今後の方針などをお聞かせください。
野﨑:当社は全国に約200か所の部署があります。徐々に受入れへの前向きな雰囲気は広がってきているので、障害のある方も当たり前に一緒に働いている環境になればいいと思っています。でも、どうしても受入れ経験のない部署では進まないんですよね。一度受入れてみるとハードルも下がると思うのですが。今回Bさんが実習を経た採用の道を切り開いてくれたので、機会があれば受入れていきたいです。ただ経験としてではなく、採用につながる実習をしていきたいと思っています。
吉田:会社の理解だけでなく、担当者の理解も大事だと、今回担当になって感じました。私は大学生の頃、発達障害について、少し学んだことがあったんです。全く知識0だったら厳しかったかもしれません。今後は障害について学ぶ機会もあったほうがいいのかなと思います。
企業・団体名 | 西尾レントオール株式会社 |
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事業概要 | 1965年に道路機械のレンタルを開始。現在では「総合レンタル業のパイオニアとして経済社会に貢献する」を事業方針とし、建設機械、イベント用品等のレンタルや商品の開発を手掛ける。 |