発達障害のある学生がどうやって配慮を求めるか(1)~大学生活編~
【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。
発達障害のある方が社会生活を送る上での問題
発達障害特性に対してどうやって配慮を求めるか。
これは、非常に大きなテーマになる。凸凹のある発達障害の方は、全てのことを満遍なくできるようになることは困難だ。
困難であっても、全てのことを満遍なく行うことはできるかもしれない。しかし、それには多量のエネルギーを要する。
例えば、私は忘れ物が異常に多い。特に、ボールペンや傘は無くさない方が珍しい。一時期、ボールペンや傘を無くさないために、かなり注意をした時期がある。だが、その注意をするのが本当に大変だった。他の方には共感してもらいにくいかもしれないが、ボールペンや傘を無くさないように1日を過ごすと、それだけで全エネルギーの半分近くを持っていかれるような感覚に陥った。
いつからか、ボールペンや傘は無くしてOKと割り切ることにした。私はボールペンや傘を少なくとも年間30本はなくし、同数は購入しているが、それは私が生きていく上での必要経費と思うことにしている。
このように、発達障害のある方が無理にできないことをしようとすると、非常に大きなエネルギーを使う。工夫や努力でなんとかなる部分もある。しかし、工夫や努力でもなんともならない部分があれば、そこにエネルギーを使うべきではないと思う。
私は自分のできないことをなんとか克服しようと、社会人になって10年近く努力した。しかし、10年経っても、少しできるようになっただけで、社会人として一般に求められるレベルには達することができなかった。今でもミスは多いし、忘れ物をするし、時間は守れないし、人の話を聞いている時は大体他のことを考えているし、管理や調整業務をやると迷惑をかける。
結局、できないことはできないと割り切って、できることに集中しようと切り替えてから、人生は劇的に楽になった。できないことについては、
(1)お金を使うか
(2)人に頼るか
のどちらかを採用するようにしている。
ただ、私も裕福なわけではないので「(1)お金を使う」ことはなかなかできない。
だから「(2)人に頼る」を意識して使うようになった。
人に頼る上で最も基礎となる行動が配慮を求めることだ。ただし、この配慮を求めるのが簡単ではなかったりする。
配慮を求めるためには、
(A)自分の障害特性を開示すること
(B)障害特性に応じた”適切な”サポートをしてもらうように要請すること
の2つの行動が必要になる。そして
(C)相手が理解してくれて
(D)相手が行動してくれること
も必要条件になる。
この4つの条件が揃って初めて良い配慮を受けられることになる。逆に、この条件のどれかがかけると、自分にあった配慮を受けられることは期待しにくい。
発達障害のある大学生が配慮を求めるには
では、具体的にどのように配慮を求めたらいいのか。大学生に絞って考えてみたい。
今回は、大学生活において配慮を受ける場合を考えたい。
私は長年複数の大学で非常勤講師をしているが、ここ2年程で、配慮の要請がある学生についての情報が大学から講師に共有されるようになってきた。
そのため、障害がある場合は特性を大学に開示し配慮を要請すると、講義を行う講師のところまで配慮依頼が来る可能性が高くなっている。
一方、講師側とすると、配慮が難しいケースも少なくない。
まず、最も難しいのは過大な配慮要請だ。以前、聴覚障害のある学生から、講義に関する私の発言を全て文字化するように求められたことがある。確かに文字化をすれば、彼の学習にとって大きな役に立つだろう。しかし、私が文字化作業に多大な時間を費やされることになる。他の仕事もある中で、対応不可能な要求であった。結局、その大学の教務課に相談し、ノートテイカーを付けてもらうことで最終的に合意した。
このように、配慮の内容が過大だと、対応が難しいケースがある。
また、本人の成長につながらないと思われる配慮については、講師として悩むケースが少なくない。例えば、以前ASD(自閉症スペクトラム・旧アスペルガー症候群)の学生からグループワーク中心の講義で、グループに入らず個別で講義を受けたいという配慮の依頼があった。
コミュニケーションの苦手度合いやメンタルヘルスの状況から、一人で講義を受けてもらった方がいいケースも少なくない。ただ、その講義は意見交換を通して気づきと学びを得てもらう構成であったため、グループに入らないと学習効果が激減してしまう恐れもあった。また、その学生がグループワークを苦手としていても敢えてグループに参加してもらうことで、コミュニケーションの練習をしてもらいたいという思いもあった。このケースでは、私は彼と話し合い、最終的にグループに入ってもらうことを合意し、その代わりに辛くなったら途中で抜けてもOKとした。大変そうではあったが、彼は15回の講義で最後までグループに入ってがんばって取り組んでくれた。
大学生活においては、発達障害支援の流れは定着してきている。必要な配慮はどんどん受けよう。ただ、あまりに過大でないか、その配慮が自分の成長につながるかはよく考えておこう。
次は、就職活動でどうやって配慮を求めるかについて書きたい。
【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。
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