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発達障害のオープン・クローズ問題(1)

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

発達障害を明らかにして就労するか(オープン)、発達障害を隠して就労するか(クローズ)について書いてみたい。障害者雇用では全てオープンになるので、今回は一般雇用で障害をオープンにするか、クローズにするかについて書いてみる。

メリット・デメリットの説明は、このHPの「一般雇用での就職活動」に書かれているので、今回はもう少し別の角度から見てみたい。
一般雇用のオープン・クローズ問題は、実は意外と考えるべき要素が多いからだ。

発達障害の有無で採用の判断をしてはならない

大前提として、発達障害があることを面接で伝える必要はない。また、伝えないことに罪悪感を抱く必要はない。そもそも発達障害の有無で採用の判断をすること自体が明確にNGであるため、企業は発達障害の有無に関係なく面接を行なって合否を決めるべきだからだ。
なお、発達障害の有無を採用の判断材料にしてはいけない根拠は、障害者雇用促進法第34条「障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければなりません」など数多くある。

その上で、今回は面接官側の立場から、発達障害のある応募者について、どう見えるのかを書いてみたい。

発達障害のある方を面接官側から見た場合

面接
私は依頼を受けた企業の面接官をすることがある。面接官としてグループディスカッションや一次面接を代行するのだ(ちなみに、応募者には選考を行なっている企業の外部者だということは言わない)。

グループディスカッションを観察したり、面接を行うと、発達障害傾向があると感じる応募者に会うことは少なくない(医者ではないので、決めつけは絶対に行わないが)。
その際に、発達障害傾向のあるなしで、次の面接に行ってもらうか、不採用を決めることはない。そんな判断基準が存在しないからだ。グループディスカッション・面接では基本的には企業ごとに判断基準があり、判断基準と通過率(応募者のうち何%程度を次の先行に進めるか)に合わせて客観的に評価する。発達障害傾向の結果、判断基準に満たさずに不採用にすることはあっても、発達障害傾向だけで不採用にすることはまずない。

また、数は多くないが、応募者から発達障害があることを面接中に開示されることがある。そんな時は、私は面接官として、発達障害傾向のあるなしに関係なく客観的に判断し、特記事項に発達障害特性のことを書くようにしている。

特記事項に発達障害特性を記載

他に話を聞いても、多くの企業では表面上は発達障害があることを知ったとしても、採用には直接は反映していないようだ。逆に発達障害特性の有無を採用結果に反映していたら問題だ。

しかし、これはあくまで表面上の話である。同じ面接官仲間や、企業の人事と話してみると、また別の本音が見えてくる。

企業の人事・面接官によって私が感じていること

まず、私が話した限りだと、多くの人事や面接官は発達障害に関する知識が乏しい。障害者雇用の担当をしたことがある人事の方は、まだ理解があるケースが多い。しかし、そうでない場合は、発達障害に関してはごく表面的な知識しか持っていない場合が多い(もちろん、これは企業によると思う)。

発達障害に対する知識が乏しい人事・面接官は、発達障害がある方を通過させたり採用したりすることに過剰にリスクを感じているようだった。採用して問題が起きると自分の責任問題になるからだ。そのようなリスクを感じる人はあらかじめ落としておいた方が自分の身を守ることにつながるのだ。

はっきりとそのようなことを言っていたわけではないので、私の考えすぎなのかもしれない。しかし、いろいろ話すとどうもそう聞こえてしまう。採用の評価は、いくら客観的にとは言っても、厳密に点数をつけることは難しい。例えば、5段階評価の3と4のどちらをつけるか迷うケースが多いが、発達障害という情報を聞くことで、3につけてしまう可能性は十分に感じられる。

人は情報が少ないと、表面的な情報に捉われてしまう。面接官も例外ではない。私も時々面接官をするが、学歴が良い応募者であれば、優秀な応募者であると無意識に想像していることに気づくことがある(そのような無意識の固定観念に気づくことも、面接官として大切な能力の一つだ)。同じように、発達障害があるということが面接官の固定観念に影響を与えてしまうというのは、避けようがない。そして、発達障害に関連する情報は、大体の場合において悪い方向に影響を与える。

このように、一般雇用で発達障害特性をオープンにすると、企業側は客観的に採用しようとしても、やはり不利になってしまうケースが多いのかなと思う。

一方で、入社後のことを考えると、面接段階から発達障害のことを伝えようという考え方も良く分かる。私自身、自分に発達障害傾向があるために会社で適応できなかった経験を持っているから、入社時点から配慮を受けられたらどれだけ良いかと、身に染みて感じている。

では、オープン・クローズ問題を具体的にどう捉えればいいのか。それは次回に説明したい。

▶ 発達障害のオープン・クローズ問題(2)

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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