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ADHD持ちの私がパワハラ上司とたまたま再会した話

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

ある日、カフェでパソコンを開いて作業をしていたら、「あっ」という声がした。顔を上げた瞬間、自分でも血の気が引くのが分かった。

パワハラをした元上司と再会

以前に私にパワハラをした元上司がそこにいたのだ。私は社会人人生で3人からパワハラを受けたが、そのうちの一人だった。なお、私がパワハラにあったのは、全て発達障害で仕事のできない部分がきっかけだ。そして、私にパワハラをした3人は他の人にもパワハラをしていた。

元上司からパワハラを受けた会社を辞めた後、会社があった場所の駅に降りられないくらいトラウマになったが、ここ数年は彼のことを昼に思い出すことはなくなっていた。ただ、彼に怒鳴られる夢を見ることはたまにあった。

怒鳴られる
その相手が目の前にいた。たまたま会ったことにも驚いたが、生々しい過去の出来事や傷みが急にフラッシュバックしたことにもっと驚いた。
彼にそれを気づかれるのも嫌だったので、私は立ち上がって「お久しぶりです」と挨拶をした。彼は「久しぶり」と言って、なぜか私の席に座ってきた。

そして、「最近どうしているのか?」と聞いてきた。最近の仕事の状況を伝えると、「随分活躍しているんだな。あの頃と大違いだ。」と笑いながら言った。

その時点で腹が立ったが、私は嫌味のつもりで「○○さんに鍛えられて、精神的に強くなったんですよ。」と言ったところ、真顔で「確かにそうだろうな。今だとパワハラとかなんだとか言われて、部下を厳しく指導できないから、部下がなかなか育たないんだ。」と言った。

私は耳を疑った。その上司が部下に怒鳴ったり、酷い扱いをしたりするために辞めていく人が多かったのだ。辞めないとしても怒られないように萎縮する人が多く、彼の下で明らかに人は育っていなかった。
「最近は、パワハラも法制化されましたもんね。」と言うと、「だから俺も最近は注意している。でも、俺が厳しく接したやつは、お前みたいに何年か経ってから俺に感謝していると思う。」と返された。

私が彼を感謝していることになっていたことに、ひどく呆れた。私は彼からパワハラにあっているとき、あまりにも辛くて通過する特急電車に身投げをしかけたことがある。そんな相手に感謝するはずがない。そして、彼から理不尽なパワハラを受けたほとんどの人は、彼を憎むことはあっても感謝をすることは永遠にないだろう。

「なんでフリーランスをやっているの?」と聞かれたので、「以前お伝えしましたが、私にはADHDという発達障害の一種があります。できることとできないことの差が激しいので、できることに特化しようと思いフリーランスになり、今はまあまあうまくやっています。」と言った。

そうすると、「確かに、なんでもできるやつじゃないと、部下にいらんもんな。お前みたいな奴が部下になったら、また怒鳴ってしまうかもしれない」と言っていた。血が沸騰するかと思うくらいの怒りの感情が押し寄せてきた。

私がフリーランスを続けているのは、これまでパワハラを何度も受けてきて、会社員になることに恐怖を感じていることも理由の一つだ。彼は部下の特性に合わせて業務を割り振ることができなかった。自分のマネジメント能力の低さを棚に上げて、彼は自分を正当化していた。

その後、彼の近況を聞いたりした。転職をして会社は変わったものの、当時と同じような役職で同じようなことをやっているようだった。プレイヤーとしては非常に優秀だが、人の管理ができないので出世はできなかったようだ。

当時のことを客観的に伝えた上で喧嘩をふっかけることも考えた。が、彼は一生変わることはないんだろうなと思った。これ以上話をするのも嫌だったので、「次の約束がありますので失礼します。」と言って席を立った。

パワハラ上司との再会後

話した時間は10分もなかったと思う。ただ、その間に様々な感情が生じ、色んなことを考えた。
人が自分のことを正当化する傾向にあるのは、心理学の数多くの実験で証明されているところだ。そして、パワハラの加害者は「パワハラ行為をした」という事実があっても、記憶を都合よく改変し、かつ自己正当化するということがよく分かった。

パワハラ被害の傷に私がいくら苦しんでも、意味がないことがはっきりと分かった。こんな奴のために、会社を辞めた後も苦しみ続けたのかと思うと、馬鹿らしくなってきた。

その日は、仕事を頑張るつもりだったが、どうもやる気が出ずに、昼からお酒を飲みに行った。
ずっと考え事をしていたので全く味がしなかった。

その日の夜、夢の中にあの上司が出てきて、また怒鳴り始めた。しかし、いつも萎縮している夢の中の私が、冷静に反論し、法律の話を持ち出し撃退した。少しは古傷が癒えたのかもしれない。

※パワハラと発達障害については、「発達障害とパワハラ(1)~なぜ発達障害者はパワハラに遭いやすいのか~」をご覧ください。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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