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新社会人になる発達障害のある方へ(3)

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

新社会人になる発達障害のある方へ(2)」の続きである。新社会人として、できるだけ会社に適応するためには、業務遂行面関係構築面で対応が必要になると書いた。今回は関係構築面での対応について書いてみたい。

仕事の二大要素の一つ『関係構築』

関係構築
発達障害のある方は、関係構築面でも苦手な方が多い。特にASD(自閉症スペクトラム症候群・旧アスペルガー症候群)がある方は、コミュニケーションや社交性を苦手とする方が多く、関係構築に悩みを抱えるケースが少なくない。

また、業務で失敗が続くと、上司や先輩との関係性が悪くなり、そうすると必要な協力が得られなくなったり、緊張が続いたりすることで失敗が増え、さらに関係性が悪化する、という悪循環にはまることもある。私はこの悪循環に何度かはまったが、本当に辛い体験だった。

では、どのようにすれば良い関係性を構築できるのか。多様な要素や多様な方法があるので、一概には言えないが、いくつかポイントを伝えたい。

発達障害のある方が良い関係性を構築するためには

まず、相手としっかり雑談しよう。雑談というのは、業務以外の会話だ。雑談をすることで、上司や先輩との距離感を縮めよう。距離感を縮めておけば、何かあったときに助けてもらえる確率が高くなるし、失敗に対しても寛容になってくれる。

私は1社目では、関係性構築がある程度上手くいった。上司・先輩方が優しかったことが一番の要因だ。関係性構築がある程度上手くいっていたので、できないことが多くても温かい目で見守ってくれる方が多かった。2社目になると、出向者という特別な立ち位置もあり、上手く関係構築ができなかった。その時にパワハラに遭ったのだが、周囲になかなか助けてくれる人がいなかった。それは、私が周囲と上手く関係構築ができなかったことも大きい。

結局、仕事は最終的に人と人が行うものなので、仕事に適応するためには、仕事で関わる人と良い関係を作ることが求められるのだ。
もちろん、良い仕事をすることで、良い関係性を作ることはできる。ただ、新社会人の間は、いきなり良い仕事をするのは難しい場合が少なくない。となると、雑談によって、相手と関係性を作るのは一つの作戦となり得る。

雑談は、仕事のちょっとした合間でできる。そして、ランチを一緒に食べたり、飲み会などに参加したりすると、雑談がむしろ中心になる。

雑談

仕事と関係のないことをわざわざ話したくない?
わざわざ会社の人とランチや飲み会に行きたくない?
その気持ちはよく分かる。私も食事は本来一人でしたい方だし、会社での飲み会は嫌いだった。でも、ランチや飲み会は、関係性構築上のメリットが大きいから行っていた。

特に発達障害のある方の場合は、どうしても他の人からフォローしてもらう場面が多くなる。その時に、周囲の人と良い関係性を作ることができているかどうかが決定的に重要になるのだ。なので、普段から雑談を行うことをぜひ意識して欲しい。

その雑談を行う上で大切なのが「傾聴」だ。繰り返しになるが、発達障害のある方はコミュニケーションを苦手とする場合が多い。例えばADHDのある方の場合は、発想が飛躍しがちなので、相手がついていけなくなる。

そんな時に、聴く力を高めることが効果的だ。相手の話をじっくり聞き、適切に質問をできるようになれば、こちらが話さなくても、相手が勝手に話してくれる。そして、こちらが多く話を聴くと、相手が楽しいという感覚を抱きやすくなり、好感度も上がりやすい。

傾聴

こちらの話を一方的に伝え続ける傾向があったり、自分の話がどんどん飛躍して、相手が話についてこられない傾向にあったりする方は、ぜひ試してみて欲しい。
傾聴の具体的な方法については、インターネット上に情報が多く転がっているので、興味のある方はぜひ調べてみて欲しい。

個人的には、雑談で自分自身が楽しむというより、雑談を仕事の必要な要素として意識して行った方が良いと思う。仕事で適応するためには、関係性構築は非常に重要だ。発達障害のある方が、その関係性構築を苦手としているのはよく理解している。私も苦手だ。

繰り返しになるが、苦手だから関係性構築を放置して、とにかく業務遂行で成果を出すことを目指すのも一つだ。ただ、新社会人として、なかなか上手く業務に対応できないうちは、周囲と良い関係を築くことを目指す方が圧倒的に近道だと思うのだ。

以上3回に亘って、新社会人の方に向けたメッセージを書いてみた。私は発達障害が原因で、仕事に適応できず、10年間非常に苦しい思いをし続けた。しかし、仕事に適応できるようになった今は、仕事が大変であることはもちろんであるが、大きなやりがいを感じている。

発達障害のある方は、仕事に適応できるようになるまで時間がかかるケースは少なくない。適応するための苦労を私も体験してきたし、苦労している方もまた多く見てきた。
だからこそ、周囲の理解と配慮を得ながら、自分でも努力と改善を続けることで、仕事に適応し、自分らしい働き方ができるようになることを願っています。

▶ 新社会人になる発達障害のある方へ(1)
▶ 新社会人になる発達障害のある方へ(2)

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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