ADHDのある大人が楽に生きるために
【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。
ADHDのある大人は仕事でもプライベートでも苦労しがち。だが……
私にはADHD(注意欠如多動性障害)がある。
私にとって、特に大きな問題は、ミスが多いことと、締切が守れないことだ。学生時代だけでなく、大人の社会人になってからも仕事やプライベートで苦労してきた。
先日ふと思い立って、1日でどれだけミスをするのか数えてみた。
すると、その日のミスの回数は9回だった。
内容の一部は、
・講義にチョークを持ってくるのを忘れた
・パワーポイントの資料に誤字があった
・妻から頼まれた買い物を忘れて帰宅した
・服を片付けるのを忘れた
などなど。
では、困ったか?全く困らなかった。
ADHDのある大人の、ミスに対する考え方の一例
なぜ困らなかったのか。
その大きな理由として、私は「大きなミスをしなければ、小さなミスはいくらでもしていい」と考えているところがある。
私はミスを3種類に分けている。
(1)1年以上先の自分に影響を与えるミス(致命的ミス)
私の場合の例:講義をすっぽかす(やったことはないが)
(2)1日先の自分に影響を与えるミス(大きなミス)
私の場合の例:学生に重要な伝達事項を忘れる
(3)今日中にカバーのできるミス(小さなミス)
私の場合の例:家でやるつもりのプリントの印刷を忘れる(大学で印刷できる)
①②のミスは極力避けるようにしているが、③のミスはいくらしてもいいと考えている。
ミスを9回した日も②:1回、③:8回という構成だったので、困らなかった。※1
以前、精神的に辛かった頃は「ミスをしてはいけない」という思いに囚われていた。また、そのときは小さなミスに対しても厳しく怒る上司の元で働いていた。
そこで、小さなミスもしないように注意した結果、逆に致命的なミスや大きなミスを招いてしまったのだ。
今は、①致命的ミス、②大きなミスだけはしないという考え方をしている。①②については、事前にミスの傾向を把握し、対策も立て、かなり意識をしている。それができるのは、③小さなミスは「してもいい」と思って特に対策を立てていないからだ。
本来は③もしないほうがいい。しかし、③についても対策を立てるのであれば、ADHDのある大人である私はすぐにキャパオーバーになってしまう。③をしてもいいと思うようになってから、ミスの数は増えたが、困らなくなった。そして、精神的にずいぶん楽になった。仕事仲間からの評価も上がった。
ADHDのある大人のみなさんへ
この例は、私だけに当てはまる例かもしれない。
しかし、思うのだ。ADHDのある大人が自分の特性を受け入れ、その上で小さいミスやトラブルを気にしないようになれば、精神的にずいぶん楽になるのではないかと。(既に受け入れている方も多いと思う)
ADHDによるトラブルが辛いと感じる大人の気持ちは私も当事者としてよく分かる。特に精神的に苦しい状況では、ADHD特性を呪わしく思ってしまうことは私も何度も体験してきた。
それでもなお、ADHD特性を受け入れることをオススメしたい。「べき論」で言っているのではない。そうした方が楽だから言っている。
ADHDのある大人は、「自分にはADHD特性がある」ことを受け入れ、その上で自分の働き方や生き方を構築した方が、楽な生き方に近づけると思う。
もちろん、ADHD特性による苦労は簡単には無くならないだろう。しかし、「それも含めて自分だ」と思うことができれば、落ち込みも減るのではないか。
私は大きなミスをしたとき、いつも「スラムダンク」というバスケットボール漫画の1シーンを思い出すようにしている。(読んでいない方、突然すみません。名作なのでオススメです)
主人公である桜木の失敗に対し、チームメイトでライバルの流川が「…税金みてーなもんだ……おめーのヘマはもともと計算に入れてる」と言うシーン。(単行本29巻に載っています。興味のある方は探してみてください)
私がスラムダンク好きだからだが、このシーンを思い出すと、私の場合はミスをした落ち込みが不思議と消えていくのだ。
方法は何でもいいと思う。自分なりにADHDを受け入れ、小さな失敗を気にしない、ある程度大きな失敗でも精神的にリセットする手段を身につける。
それだけで、ADHDを持つ大人も楽に生きられるようになると思う。
※1
②:1回のミスは妻から頼まれた買い物を忘れて帰宅したことである。妻の不機嫌は翌日まで続いた。翌日、ケーキを献上して許してもらえた。
【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。
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