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発達障害のある新入社員の生き残り術/発達障害のある新人教育術(1)

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

発達障害のある新入社員は、入社直後につまずきやすい

仕事において、発達障害のある新入社員が生き残っていくためにはどうしたらいいのか?
もしくは、新たに入社した新人に発達障害があったら、また発達障害傾向が見られたらどうすればいいのか?

今回はこの2点について考えていきたい。
なぜなら、発達障害のある方が、仕事で一番つまずきやすいのが、入社直後だからだ。
同時に、教育する側にとっても、入社直後が教育に最も手間と時間がかかるタイミングになる。

私は大学を卒業した時点で自分が発達障害であることを知らなかった。そして、新入社員として入社した会社では、どんどん組織人として適応していく同期を横目に、私は非常に苦労していた。
その時の上司・先輩の側からしても、私の扱いに困ったことだろう。いくら教育してもなかなか成長しない新人に相当手を焼いたはずだ。

当時は発達障害という概念がほとんど社会に浸透していなかった。それでも、私を戦力化させるために力を尽くしてくれた人がいる。
現在はかなり発達障害という概念が浸透してきている。それでも発達障害のある方が上司・先輩とうまくいかずに傷ついた心のまま会社を辞めるケースが後を絶たない。

発達障害のある新入社員がどうすれば企業に適応して生き残っていけるのか、そして発達障害のある新人を受け入れる側はどのように対応し、教育していけばいいのか、それを考えたい。
なお、新入社員・新人とも、新卒・中途の両方の場合があるとする。

新入社員が対応しなければならない4要素

まず、発達障害に限らず新入社員は大きく3つの要素に対応しなくてはならない。

(1)業務遂行能力の獲得
(2)部署内での人間関係の構築
(3)企業内の暗黙のルールへの順応

大学生から社会人になる場合は

(4)社会人ルールへの順応

という新たな要素が加わる。

多くの日本企業では新入社員に対して比較的寛容で、この4要素への適応はある程度優しい目で見てもらえる(例:彼はまだ入社したてだから…)

しかし、ある一定の時期を過ぎると、求められるラインを満たしていないことに対する風当たりは急激に強くなる。
これら要素に対応できないことに対する攻撃が始まるのだ。いわゆるパワハラという形で大っぴらに攻撃されるケースもあれば、無能という烙印を押され情報網から外されるという形で制裁を受けるケースもある。

このように、日本企業は4要素を「当たり前」とみなして、「当たり前」ができない人に対して厳しい態度を取ることが多い。
ただし、その「当たり前」ができないのが発達障害のある方だったりする。
今回はそれぞれの要素について、新入社員側と、教育側の両方の立場から見ていきたい。
なお、主に、ASD(自閉症スペクトラム・旧アスペルガー症候群)、ADHDのある方を対象にしている。

(1)業務遂行能力の獲得 を達成するために

仕事では、各人の担当業務が割り振られ、一定の成果を上げることが期待される。前職で経験がある場合もあれば、全くの未経験で新たな仕事に対応しなくてはいけない場合もある。前職で経験がある場合でさえ、新しい会社では覚えないといけない部分が多くある。

そんな時、発達障害で凸凹のある方は、早く身につけられる部分と、なかなか身につかない部分がある。
ADHD不注意優勢型のある方であれば、集中力を要する仕事をミスなくこなすようになるまで相当に時間がかかる可能性がある。ASDのある方だと、不確定要素の多い企画・調整系の仕事に慣れるのに時間がかかる可能性もある。

発達障害当事者→できることと苦手なことを細かく分類しよう

では、発達障害のある方は、担当業務をどう身につけていけばいいのか。
ただ頑張るだけでは効率が悪い。まずは、自分ができること、できないことを細かく分類しよう。
例えば、営業担当者であれば主な仕事は、「アポ取り」「商談」「提案書作成」「クロージング」などに分けられるかもしれない。その時、どこが比較的できて、どこが苦手なのかを明確にしておこう。それを上司や先輩に共有することで、苦手な部分の支援を受けやすくなる。
入社した直後は全ての業務が苦手かもしれない。だが業務をこなしているうちに得意と苦手が見えてくるだろう。発達障害がある方は、特に苦手が見えやすいので、自分でいち早く苦手を見抜き、周囲の力を借りて対処をしていこう。

上司・教育担当者→得意業務と苦手業務の見極めを

上司・教育担当者に求められることは、得意業務、苦手業務の見極めだ。
まずは得意業務を中心に担当を割り振り、少しずつ苦手業務にもチャレンジさせていく。そして苦手業務にチャレンジさせる場合は、一度に複数の苦手業務を割り振らない。時間をかけて、少しずつできることを増やしていこう。
企業ではどうしてもマルチタスクにならざるを得ないケースもある。ただ、発達障害のある方は様々な理由でマルチタスクが苦手な場合が多い。少しずつできることを増やしていこう。


次回の《発達障害のある新入社員の生き残り術/発達障害のある新人教育術(2)》以降で(2)(3)(4)についても見ていく。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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