発達障害のある新入社員の生き残り術/発達障害のある新人教育術(3)
【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。
発達障害のある新入社員が、苦労を乗り越え戦力となるには
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今回は、前の記事の続きになる。
発達障害のある新入社員が企業に抵抗する方法、発達障害のあると思われる新人の上司・教育担当者がその新人を戦力化するための方法を模索したい。
新入社員が適応するための4要素、
(1)業務遂行能力の獲得
(2)部署内での人間関係の構築
(3)企業内の暗黙のルールへの順応
(4)社会人ルールへの順応
のうち、今回は(4)を見ていく。
(4)社会人ルールへの順応 を達成するために
これは主に、新卒の方が主に該当する。
社会人ルールとは、 “常識”と “マナー”に分けられる。
“常識”とはまさに社会人として「当たり前」とされることだ。
例えば、「遅刻をしない」「会議では座っておく」といったことだ。働いている人からすると当たり前のことかもしない。しかし、発達障害のある方にとってはその「当たり前」が非常に難しいことがある。
例えば、あるASDの方は遅刻を繰り返していた。理由は、朝起きてから家に出るまでの準備を一つ一つきちんとしないと気が済まず、どうしてもそこに時間がかかりすぎていたからであった。
また、ADHD多動型の方は、長時間会議で座っておくということができない方も多い。ADHD不注意優勢型の私は、会議が30分を超えると集中力が保てず全く別のことが頭に浮かぶ。様々な工夫で何とか集中力を保てるようになってきたが、やはり会議は苦手である。
“マナー”は、社会人として仕事をする上でのルールを指す。
(3)と違うのは、日本社会全体で明示化された共通のルールであることだ。このマナーを実行できないと、社内はおろか、社外でも非常識と見なされる。それほど影響力は強い。
そのため、企業は新卒の方対象のマナー研修を実施することが多い。
発達障害のない方は、マナー研修+日々の実践で比較的早くマナーを習得する。
だが、発達障害のある方はこのマナーが苦手である場合が多い。
マナーはその性質上、自分を型にはめることを要求される。
ADHDのある方は衝動性が高いので、決まりきった型にはめられることは苦手だ。また、不注意性からマナーにどうしても抜け漏れが出てしまう。
ASDのある方は社会性の問題からマナーに対する重要性を理解できていないことが多い。
私もマナーの取得には非常に苦労した。社会人1年目にどれだけ注意されたかわからない。
最近、当時の私を知る人に、私が現在マナー研修に講師として登壇することがあると言ったら「世も末だ」と言われたほどだ。
発達障害当事者→常識・マナーの意味や理由を調べよう
では、発達障害のある方が常識・マナーを学ぶときにはどうしたらいいのか?
私は「なぜ」を知ることをオススメする。
常識・マナーは調べてみると実は意味がある。
マナーを「型を守らなければ面倒なもの」と考えると、身につけるのが困難である。
しかし、「相手のための配慮の方法」と考えると状況は変わってくる。それぞれのマナーがなぜ相手への配慮につながるのかを知れば、それぞれのマナーを実施しやすくなる。
例えば、お辞儀をするときは“語先後礼”と言い、口頭で挨拶をしてからお辞儀をすることがルールとなっている。
この“語先後礼”が苦手である時「語先後礼 なぜ」と検索して調べると、必要な理由が見えてくる。そうすると、実際の仕事場でも“語先後礼”を行いやすくなる。
常識・マナーは時間がかかっても、身につけていかざるをえないものだ。だが、その背景を知ることで、より早く適応していけるようになる。
上司・教育担当者→事実をフィードバックして、粘り強く教え込む
では、上司・先輩の立場から発達障害のある方に、常識・マナーをどう教えていけばいいだろうか。
「常識だろ!」「マナーだからやれ!」と言っても効果は期待できない。その常識・マナーの理由をきちんと説明することだ。理由を説明し、背景を知れば常識・マナーを実施する意味が分かる。
また、常識・マナーに対しては、粘り強く教え込むことが大切だ。必要な理由がわかっても、発達障害のある方自身ができない理由が分かっていないことが多いからだ。
例えば、私は新入社員時代に、かかってきた電話を取ることが苦手だった。会社名と名前をメモして、先輩社員につなぐだけなのだが普通に取れるようになるまで半年近くかかった。自分でもなぜそれほど苦手だったのか分からず、当時は非常に苦戦した。
発達障害のある方には聴覚過敏や聴覚鈍麻がある人がいる。かなり後年になってから、私には軽い聴覚鈍麻があることに気がついた。具体的には、話の切り出しと固有名詞が聞こえないことがある。そのため電話が苦手だったが、苦手な理由は周囲にも私にも分からず「使えない奴」という印象ばかりが形成されていった。
このように本人さえ気づいていない理由で、発達障害のある方は常識・マナーの取得に時間のかかることが多い。ほとんどの方が常識・マナーを守らなければならない重要性は理解している。何度とやってできないだけだ。
だからむやみに怒らず、事実のみフィードバックして、ゆっくりと待とう。
長期的な視点で、共に成長を
以上、新入社員が適応する4要素について、発達障害のある新入社員の方、新人を育成する上司・教育担当者の方、双方の目線で見てきた。
どちらの立場であれ、最初は忍耐が必要になることが多い。発達障害のない方と比べて、時間がかかる側面もあるだろう。
発達障害のある新入社員の方は、自分がなぜできないのか自問自答することもあるかもしれない。辞めたくなることもあるかもしれない。
だが、成長し、適応することで自分にとって素晴らしい職場に変わる可能性は、簡単に手放さない方がいい。(かといって、限界まで働いた方がいいというわけではないので見極めが難しいのだが)
一方、新人を育成する上司・教育担当者の方は、なかなか改善しないことを理由に見捨てるのは早計かもしれない。上司・同僚から見て「やる気がない」と思っても、本人は必死で頑張っていることは少なくない。
発達障害は先天的な脳機能の障害だ。そして人間の脳には柔軟性が備わっており、脳機能の障害があっても別の方法でカバーすることもできる。発達障害がない方からしたらゆっくりに見えるかもしれないが、確実に成長し続けていき戦力になることも多いのだ。
私の大学時代の友人で新入社員時代、クビになりかけた人がいる。最近になって再会し話を聞いたところ、近年ASDの診断を受けたそうだ。
彼は、新入社員時代に見捨てられ、最後のチャンスとして別の部署に異動になった。そこの部署の上司は彼をじっくり教育し、彼もそれに全力で応えた。彼は自分の能力を開花させ、現在ではその会社の最年少執行役員として大活躍しているそうだ。
本人も周囲も長期的な視点で成長を共にすることができれば、発達障害のある方もその企業で大いに貢献する可能性は多分にある。発達障害のある方も発達し続けるのだ。
新たな企業に入社した発達障害のある方が、その企業で自分の能力を発揮し、自分らしい働き方ができることを願っています。
【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。
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