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発達障害の当事者が講演することの効果と限界

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

今回は自戒を込めて書いてみたい。
先日、発達障害に関連したあるイベントで講演させていただく機会を得た。
ありがたいことに満足度が高く、色々なことを感じていただいたようでホッとしている。

自分の発達障害特性について語ることは、自分の傷に触れることになる。と、同時に、自分の体験・思索について興味を持って聞いていただけるというのは嬉しい気分にもなった。

その後、参加者の方と直接お話をさせていただく機会があった。当事者としての講演活動を行なっていたり、講演活動を希望される方が一定数いて驚いた。

そこで今回は、発達障害当事者が講演することの効果・限界を考えてみたい。
私が講義・講演・研修などを10年近く行ってきた経験と、そこで学んだ講演作りのスキル・ノウハウもちょっとだけお伝えできればと思う。

講演

発達障害当事者が講演することの効果・限界

まず、発達障害当事者が講演することは、一定レベルの効果があると思う。
どういう層を対象とするかによって、その効果は異なる。

発達障害当事者が講演することの効果

発達障害を知らない、または発達障害への理解が浅い層に対しては、当事者講演は発達障害への理解の深まりと、イメージづけになる。「百聞は一見にしかず」という言葉の通り、目の前に発達障害の当事者がいるというインパクトが大きい。

当事者・保護者の方などに対しては、当事者講演は発達障害を乗り越えるべく努力してきた人の勇気付けとして、一つのケーススタディーとなる。

私が意外だったのが、発達障害支援を専門としている方々に対してだ。専門家の方々は日頃発達障害がある方と接触しているので参考になることがないのでは、と私は講演前に心配をしていた。しかし、講演後は、本音や捉え方が参考になったとの声を複数いただいた。

このように、発達障害当事者が講演をすることは、様々な層に対して効果があるように感じる。

発達障害当事者が講演することの限界

一方で、発達障害当事者が講演することの限界も同時に感じた。

限界として最も大きいのは、汎用性の低さだ。
発達障害の当事者講演はその性質上、どうしても当事者の体験を語ることが必要になる。そして、自分の想いを語ることが必要になる。
個人のストーリーや想いは、時に感情を揺さぶる。時に感動を生む。
それは専門家の方々の専門の見地からの話では生まれにくいものだ。

しかし、思考面では訴えかけるものがないというリスクがある。
具体的な学びを提供しにくいのだ。

例えば、私はADHD不注意優勢型だが、ADHDのエピソードばかりだとASDやLDの話が抜ける。
となると、知識がない人に対して発達障害についての偏ったイメージを与えるかもしれない。
別の特性を持つ当事者の方には全く響かないかもしれない。

また、発達障害者当事者講演の限界として、自己満足に陥りやすいことが挙げられる。
講演で自分の話をし、自分が苦しんできたことについて多くの人から共感してもらえる。
気持ちのいいことだった。そして、承認欲求が満たされるのを感じた。

この承認欲求の罠は非常に大きい。
以前、ある発達障害当事者講演で、講演者が完全に自分に酔っている様を見たことがある。なんとも言えない気持ちになった。
しかし、自分がやってみると、酔いそうになる気持ちもよくわかった。

講演は自分の承認欲求を満たすために行うのではない。
聴き手に気づきと学びを与えるためにやるのだ。
話す側はそれを忘れてはならない。

当事者講演の限界を越えるために

では、この限界を越えるためにはどうしたらいいのだろうか?

汎用性の低さへの対応⇒学習する

まず、汎用性の低さに対応するためには、学習することだ。

何らかの分野に詳しくなれば、それが独自の切り口となり、講演のオリジナル性が高まる。
例えば、私は講演ではキャリア理論と問題解決技法を一部紹介した。これは、私が大学や企業でキャリアデザインやロジカルシンキング・問題解決の講義・研修を担当しているからだ。この切り口であれば、どの層にも伝えられるものがあるかと思って入れてみた。

専門家になる必要まではないと思う。ただ、講演で多くの方に気づきと学びを提供するためには、学び続ける必要性を強く感じる。

自己満足にならないために⇒講演を聴く層の受講前後を考える

また、自己満足にならないためにはどうしたらいいか。
それは、講演を聴く層の受講前、受講後を考えることだ。
どんな人が来て、その人は講演前にどんなことを考え、講演後どんなことを考えるようになるかを、しっかりと練り上げるのだ。
講演前・講演後を考えるだけで自己満足になる可能性は大いに減少する。

最後に、発達障害当事者が講演する意味はやはり大きいと思う。
と、同時に陥りやすい壁、限界もあるのでそれを乗り越える努力は必要だ。
当事者講演のレベルがもっと高くなり、発達障害に対する認知・理解が更に進んで欲しいと思う。私も機会をいただけるのであれば、引き続き取り組んでいきたいと思っている。

という訳で、私に対する講演・研修依頼があれば、以下よりお願いします。
うーん、誘導的なオチになってしまい、申し訳ないです。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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