発達障害のある大人と自己肯定感(4)~自己受容感を高める~
【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。
今回は自己肯定感シリーズの4回目になる。
1回目は、なぜ発達障害のある方は自己肯定感が下がりやすいかについて論じた。
2回目は、自己肯定感の要素を示し、発達障害のある方に特に大事な自己受容感、自己効力感、自己有用感のうち、自己有用感について説明した。
3回目は、自己効力感について説明した。
最後の4回目は、自己受容感について説明したい。
自己受容感とは?
自己肯定感とは「自分が自分であることに満足し、価値ある存在として受け入れられること」と書いたが、自己受容感は自己肯定感の根幹をなしている。
自己受容感とは「あるがままの自分を認められていること」だ。
あるがままの自分を認められることが、自分の存在を受け入れるための前提となる。
2回目でも取り上げたが、アドラー心理学による幸福の3条件は
(1)自己受容
(2)他者信頼
(3)共同体感覚
となっている。
まさに自己受容は自己肯定感に繋がり、幸福に繋がっていくのだ。
さて、自己受容にも4つのレベルがある。
(1)行動の受容
(2)状況の受容
(3)個性・能力の受容
(4)存在の受容
だ。
(4)の存在の受容はかなり根深い部分なので今回は触れない。
自己受容のレベル
(1)(2)(3)については、発達障害のある方はなかなか受容できていない場合が多いように見受けられる。
(1)行動の受容についてだが、私は小さいころから他者と行動が合わせられない自分にコンプレックスを抱いてきた。
例えば、食事をするときにぽろぽろ米粒をこぼしてしまうなど、どうしてもきれいな食べ方ができなかったが、そんな自分を受け入れることができなかった。
(2)状況の受容についても、発達障害特性に苦しみ、収入がほとんどなかった時代の私は、自分を嫌っていた。
(3)個性・能力の受容という意味では、発達障害特性を持って生まれた自分を何度呪ったか数えきれない。
このように、「生きづらさ」を感じている自分を受け入れることはなかなか簡単ではない。では、どのように自分を受け入れればいいのか。
自分を受け入れるためには
自己受容を阻む最大の要因が、「ここまでできないといけない」という完璧主義だ。
この「ここまでできないといけない」という思い込みは、小さいころからの教育や社会から与えられる。
そして、大人になるにつれて「ここまでできないといけない」というラインは他人から与えられるだけでなく、自分でも設定するようになる。
そのラインを越えられたらOK。そのラインを越えられないとNOという考え方になってしまい、それが自己受容を阻む。
ではどうすればいいのだろうか?
努力を認める
まずは結果ではなく、努力を認めるのだ。どんなに頑張っても失敗することはある。
しかし、その失敗だけを見ていると、いつまで立ってもブルーなままだ。
そうではなく、頑張った自分をほめて認める。それが自己受容の第一歩になる。
良い点を見出す
そして、自分の行動、状況、能力、特性に良い点を見出すのだ。
例えば、私が最も自分を受け入れられていなかった時代、収入も少なかったし、離れていく人もいた。でもそんな時代があったからこそ、どんな時にでも応援してくれる先輩や友達が誰なのかが分かった。
また、発達障害があって、紆余曲折したからこそ出会えた方々が多くいる。
私にはADHDという特性があるからこそ、非常に苦労してきた。でも、発達障害があってできることが限られているからこそ、今やっている講師業という好きな仕事に導いてくれた。
現状で苦しんでいる方は、なかなか良い点を見出すことはできないかもしれない。しかし、きっとどこかにきっと良い点がある。それを積極的に見出していこう。
自己受容感は根深く、変わりにくい。しかし、一度自己受容感を持つことができれば、自分の芯として安定した自己肯定感につながる。自分を認め、受け入れようとしてみよう。
ということで、自己肯定感シリーズを終わりにしたい。
元々は自己肯定感については1回で書く予定だったが、期せずして4回も書いてしまった。発達障害のある方が自己肯定感を高めることはそれだけ重要だと思う。
1回目でも書いたが、自己肯定感を高め「自分が自分であることに満足し、価値ある存在として受け入れられること」ができれば、自分に対して安心感を持つことができ、物事を肯定的に捉えられるようになる。
発達障害があると、ちょっとしたことでトラブルになったりダメ出しされたりと、否定的になることが多い。
そんな中でも自分を肯定的にとらえ、自分の人生を良くするために行動を起こすことができるようになると、段々と現実が変わってくる。だからこそ、発達障害のある方は自己肯定感を高めた方がいい。
一人でも多くの発達障害のある方が、自己肯定感を高め、自分の人生を楽しめますように。
【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。
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