ひとりひとりが、その人の人生の主人公
企業・団体名:特定非営利活動法人HEROES
http://www.762npo.jp/
「障害のある方と一緒に働くことは福祉に携る私たちこそ、率先して進めていく必要があると思っています」そう語ってくださったのは、京都で知的障害、自閉症、発達障害のある方を対象にしたデイセンターHEROES(生活介護)を運営する特定非営利活動法人HEROES。就労移行支援事業所エンカレッジから多くの実習生を受入れ、2016年3月には発達障害のあるCさんを採用しました。採用に至るまでどのようなエピソードがあったのでしょうか。理事長の松尾浩久さんにお話をうかがいました。
「いつかは一緒に働きたい」 長年の想いを実現
- Q.特定非営利活動法人HEROES の事業内容は?
デイセンターHEROESは障害のある方が通う事業所です。主に、知的障害、自閉症、発達障害のある方で比較的重度障害のある方を対象に、自立して生活できるようにサポートしています。事業実施エリアは、京都市上京区・中京区です。ご家庭でなにかあってもすぐ駆けつけられる距離で支援をしたいとの思いからエリアを絞っています。活動時間は9:45~15:45。定員は20名で、現在14名が利用されています。
普段は、簡単な事務作業や軽作業、あとは週に1回農作業に出かけています。近くに園芸療法士の方の農場があり、一緒に収穫や水まきをしています。他にイベントもあります。好評なのがHEROESでの宿泊体験会「ちょっとステイ」。みんな寝袋で雑魚寝して余暇的な要素もありつつ、ご家族の休息もテーマになっています。当事業所の利用者さんの多くは長い間自宅に引きこもっていて、自宅以外での宿泊経験がほとんどありません。自宅以外で泊まる練習をして、徐々にショートステイにつながる架け橋になればと。また震災など起きた際には福祉避難所に行くことになります。慣れていない避難所で過ごすのも大変なので、定期的に宿泊の練習をして備えておければと思っています。
私は15年福祉の仕事をしてきましたが、前職で自閉症のある方の支援に携りました。その頃はまだ自閉症のある方への支援が浸透していない時分。支援をする中で、目の前に困っている人がいるのに何もできないということが本当に辛かった。もっと積極的に取り組む必要性を感じ、「ひとりひとりが、その人の人生の主人公」をコンセプトに2013年にHEROESを立ち上げました。今は目の前の困っている方のニーズ合わせて私たちの働きを変えていくようにしています。
- Q.障害者雇用・インターン・実習受入れに取り組むきっかけや目的はなんですか?
福祉業界で働いてきたこの15年の間に、就職希望の方と一緒に仕事を探すこともありました。ただ、その頃は不景気まっただ中。就職先はなかなか見つかりませんでした。そのときに「外部で就職先を探すのではなく、自分たちの組織で雇用できたらいいな」と思ったんです。また福祉業界、特に知的障害のある方を対象にした事業所で障害者雇用をしているという話をほとんど聞いたことがありませんでした。小規模な事業所が多く、人材不足、経済的な余裕がないなど確かに障害者雇用が進む状況ではなかったように思います。それでもなんとかできるんじゃないかと、当時の職場で模索したんですが、採用にはつながりませんでした。その頃からいつかは採用して、一緒に働きたいという想いを持っていたんです。HEROESを設立した次の年(2014年)にエンカレッジが立ち上がりました。私たちも事業立ち上げ当初で想いはあっても、すぐには雇用できませんでした。雇用はできないけれど実習先として役に立てるのであれば、ぜひ協力したいと実習の受入れを開始しました。
それまでも障害のある方との関わりは多くありましたが、大学を卒業されている自閉症・発達障害の方との関わり多くありませんでした。実習という形で受入れてみて「こんなにできるんだ」「戦力になるんだ」というのが第一印象でした。それから採用に向けた話が進み、実習を経て2016年3月にCさんを採用しました。採用の決め手は素直で真面目で、人として当事業所にマッチしたこと。本当に彼の性格や個性が場を和ませてくれます(笑)。
- Q.採用された方・インターン生・実習生の仕事内容はなんですか?
Cさんは2016年3月から働いています。利用者のみなさんの昼食準備や事業所の清掃、事務が主な仕事です。研修の申込みがある時期は、メールをチェックして申込書をプリントアウトしてフォーマットに入力するという一連の流れを担当してもらっています。勤務時間は10:15~17:45。今後フルタイム勤務も目指しているので、少しずつ1日の勤務時間を延ばしていく練習を始めています。働き始めた頃は週末に向けて疲れていくのが目に見えていましたが、今はスタミナがついてきたように見えます。Cさん自身も週末に用事を入れ過ぎないようにコントロールしているみたいです。
福祉職ゆえの葛藤と使命感
- Q.受入れをして難しいと感じたことはなんですか?
Cさんや実習生との関わりというよりは、受入れに向けて業務を切り出すことが難しかったです。小さな事業所ですので、何でも自分たちでこなすのが基本になっています。もちろん実習生にお願いできれば助かるという業務はありましたが、どの部分を担ってもらったらいいのか。普段接している利用者さんの場合、これが得意・苦手と想像しながら仕事をつくることができますが、まだ見ぬ方の仕事を切り出すのは思いのほか苦労しました。なので、エンカレッジの方に来てもらって半年かけて指導を受けながら切り出していきました。切り出してみると案外いっぱい仕事があったんです。現在Cさんにも、そのときに切り出した仕事をそのまま担ってもらっています。
業務切り出しの難しさは、障害者福祉業界で障害者雇用が進まない要因の一つなんじゃないかと感じました。でもその反面、慢性的に時間外労働が発生しているんです。うまくワークシェアリングできればいいなと思います。
- Q.受入れの際に工夫・配慮・大切にしていることはなんですか?
日報や手順書は用意しています。Cさんも毎日日報を書いています。作業に何分かかっているかという時間の感覚がなく、他の職員がすれば15分で終わるトイレ掃除に1時間かけていることがあったんです。精度を自分の思う8割程度でおさえて時間を短縮することも必要と伝えました。そのため、日報に作業時間も書いて、どれぐらいの時間をかけたのか記録していくようにしました。当初に比べて作業速度も縮まっていますが、それでもまだまだ時間はかかっています(笑)。これは私たちもまだ模索しています。
手順書では実習生を受入れている際に、配膳の食器の位置や、洗った食器の置き方が気になる方がいたので写真で見本を示すようにしました。この見本ができてから誰も質問しなくなりましたね。やって見せるよりも断然よかったみたいです。ごはんの量も「これぐらいよそって」ではなく、計りを用いるようになりました。曖昧なものを明確にすることが必要ですね。
- Q.受入れをする中でよかったことや、周囲の変化などありますか?
働く中では、慣れてくるとどうしても阿吽の呼吸で動くということがあると思いますが、それが例えばCさんには通用しないわけです。また、これは福祉職特有の葛藤なのかもしれませんが、支援するのと一緒に働くのと違っているようで重なり合う部分もある。私たちの当たり前が通用しない、そして葛藤もある中で、本当にいい意味で緊張感が出てきて私も職員も自分を振り返るきっかけになっていると思います。そうやって互いに切磋琢磨して、成長しながら働いていけたらいいのかなと思っています。
また、障害のある方と一緒に働くことは福祉に携る私たちこそ、率先して進めていく必要があると思っています。私たちのような小規模な事業所の小さな取り組みですが、雇用が実現できたことはよかったと思っています。福祉関係の事業所は京都市内だけでも数百か所あり、多くの事業所で雇用が広がっていく際の参考にしていただけたら嬉しいです。
- Q.今後の方針や将来像をお聞かせください。
「西陣麦酒計画~自閉症の人とともに西陣麦酒を醸造・販売するプロジェクト~」(http://nishijin-beer.com/)を自閉症支援に携る有志の団体・個人で進めています。自閉症のある方の強みを活かして、労働環境も整えて一緒に京都でクラフトビールを作って販売するというものです。来年春にはここHEROESで工場をオープンさせて、2017年7月に本格的な販売を目指して現在準備中です。このプロジェクトが自閉症の方の強みが活かした働く場のモデルとなればと思っています。現在、寄付金の募集をおこなっております。趣旨にご賛同賜り、皆様からの温かいご支援、ご協力をお願い申し上げております。
西陣麦酒計画~自閉症の人とともに西陣麦酒を醸造・販売するプロジェクト~
企業・団体名 | 特定非営利活動法人HEROES |
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所在地 | 〒602-8216 京都市上京区竪門前町414西陣産業会館115 |
HP | http://www.762npo.jp/ |
事業概要 | 「ひとりひとりが、その人の人生の主人公」をコンセプトに京都で知的障害、自閉症、発達障害のある方を対象にしたデイセンターHEROES(生活介護)を運営。 |