障害のある方もいて当然 世の中の縮図に近いほど自然な会社
企業・団体名:株式会社エムツープレスト
https://www.m2-p.com/
「貪欲さや向上心があればどこでも大丈夫。会社としては成長したい、役に立ちたいと思っている人を迎えたいです」そう語ってくださったのは、株式会社エムツープレスト代表取締役の増本晃明さん。エムツープレストは、トムソン型(木型)による打ち抜き加工・裁断加工を得意とする部品製造の会社です。2016年8月から知的障害や発達障害のある方の実習受入れを開始。2017年4月には知的障害や発達障害のある方3名を採用しました。どのような想いで障害者雇用に取り組んでいるのでしょうか。増本さんと、製造グループ リーダーの沖長悦子さんにお話をうかがいました。
このまま実習だけでは終われない
- Q.採用された方の仕事内容はなんですか?
増本:
当社は「トムソン加工」といってトムソン型(木型)でフィルムやスポンジなどハサミで切れるような素材を型で抜く仕事をしています。その中で、打ち抜いて不要な部分を取り除く作業や、仕分け、梱包、機械のオペレーションを担ってもらっています。機械の操作は注意が必要なこともありますが、一度セットされたものを繰り返すシンプルな作業です。
- Q.発達障害のある方の採用に至るまでの道のり
増本:
以前から、近所でパートの方を雇っていましたが、障害のある方の仕事にできないかと思っていました。「障害のある方は真面目で素直、仕事にも真剣に取り組む」というイメージがあったんです。障害のあるなしに関係なく、人を雇用する以上、人間関係や価値観の違いなどで苦労はあります。障害のある方は、できる仕事は限定的になるかもしれない。しかし、同じ苦労をするんだったら仕事を教えるところで苦労するほうが、教える側もやりがいはあるのかなと、考えている面もありましたね。
そんな中、ご縁で参加した福祉関係者の集まりで就労移行支援事業所の方と知り合い、2016年8月から実習生を受入れ始めました。「当社の作業が経験になるなら」という気楽な気持ちでしたが、最終的にその実習生を採用することになりました。実習生を受入れ始めると他の事業所からも声がかかるようになり、製造業の実習先が少ないのか、一度に3名受入れる期間が多くありました。受入れ始めて、早い段階から「このまま実習だけでは終われないな」と思うようになりました。最初の実習生も、当初は1週間の予定でしたが、次は2週間、もう1ヶ月と延びていって。彼なら十分な戦力になると感じていたので、4月採用を目標に頑張ろうという雰囲気に自然となっていきました。その方も含めて2名の採用を考えていたのですが、最終的には3名採用することになりました。今も実習の受入れは継続していて、少しでも成長してもらえればと肩ひじを張りすぎずに受入れています。
- Q.受入れをして難しいと感じたことはなんですか?
増本:
仕事へのモチベーションをどう保つかですね。仕事に身が入っていないとき、どう声かけをしたらいいのかは悩むところです。「ぼんやりしていたらいけない」と行動を叱るだけでは、本人の改善には至りません。今は、言い方を変えて、順序立てて尋ねていくようにしています。
たとえば、仕事中に眠そうにしているとき。
「眠いの? 何時に寝たの?」 「ちょっと遅かったです」
「どうせなあかんの?」 「もっと早く寝ないとだめです」
「朝は何時に起きたの?朝ご飯は食べたの?」 「ギリギリまで寝ていたので食べていません」
「どうせなあかんの?」……
と尋ねていくと正解を言ってくれます。本当はどうすればいいのか、理屈はわかっているんですね。叱るのは簡単ですが、本人の気持ちが改まらなければ意味がありません。もちろん、甘やかすばかりでもいけない。障害があるからいいよ、と特別扱いしていたら、かえって差別のようになってしまう。「ちゃんとできるのだから頑張っていこう」と励ましていくことが大切だと思っています。その分、現場リーダーの沖長が担う役割が増えてしまっていることは気がかりですが、その反面やりがいはある。その人に合わせた対応が随時必要なので、指導者の成長が見込めます。社員・パート・実習生と、性別や年齢もさまざまな方が働く職場では、必要不可欠なスキルです。指導や声かけはやりながら勉強し、困ったときは支援機関に相談しています。すべてが経験値になっていますね。
「戦力になる」と知ってほしい
- Q.受入れをする中でよかったことや、周囲の変化などありますか?
増本:
「戦力になっている」ということが大前提にあります。当社も競争相手を持つ民間企業。戦力にならなければ、雇用を続けていくことはできません。現場の視点から言うと、真剣に仕事に向き合う心構えや、素直さは彼らから学ぶべきポイントだと感じます。大きな声であいさつするので現場も明るくなる。時間もきっちり守り、ときには「自分は作業が遅いから、早めに準備する」と指定した1時間前に到着することもある。仕事も「面白い、楽しい」と声に出して言ってくれて、一緒に働く者として単純に嬉しいですよね。
沖長:
増本が言うように現場の雰囲気は変わりました。実習生も含め、とても真面目に取り組む人たちばかりなので、それに影響されて他の社員の背筋も伸びたように感じます。3名とも男性なので、力仕事の面でも助かっていますね。「力仕事があれば、任せるよ」と言っているのもあって、高いところに重いものを載せる仕事があれば「自分の仕事だ」「しときましょうか!」と進んでやってくれます。
増本:
採用した中の1名は向上心も高く、朝礼のあいさつで「将来は沖長リーダーのように……」と言っています。虎視眈々とポジションを狙っているようです(笑)。
沖長:
そうなんです。ポジションが危うくなっています(笑)。そこまで向上心があるのは、とても立派なことだと思います。みんな最初は自信なく仕事を始めますが、少しずつできるようになって自信もついて、そういう発言をするまでになったというのはうれしいですね。今後も任せる仕事を増やして、どんどん自信をつけてもらいたいです。
- Q.受入れの際に工夫・配慮・心がけていることはなんですか?
増本:
効率よく業務を進めてもらうためにも、本人の特性に合わせて単独で長時間できる仕事を任せています。慣れてくれば職域も広がると思うのですが、一気に増やさず、数量があるものを繰り返しやってもらうようにしています。
沖長:
苦手な業務は無理に任せないようにしています。挑戦はしてもらいますが、素直なので苦痛なのが表情にも成果にも表れます。ストレス面、業務効率の面からも得意を活かせるように仕事を切り分けたいですね。
増本:
あと、当社では以前から3S活動(※)で、道具の定位置を決めて、道具と置き場所の両方に名前を入れるなどに取り組んでいます。それが発達障害のある方を受入れたとき、効果的だと感じました。「そこに片づけておいて」の「そこ」は誰でもわかるほうがいい。具体的な指示は生産性を向上させると同時に、発達障害のある方にとっても働きやすい職場になる。3S活動をやっていてよかったと改めて感じました。
※3S活動……「整理」「整頓」「清掃」の頭文字3つのSを指す。製造業・サービス業における職場環境の改善や維持に用いられる。
- Q.今後の方針や将来像をお聞かせください。
- 増本:
発達障害のある方の長期のキャリア形成をどうするかは、特に考えていきたいです。能力の成長と、それにともなう給与の上昇は働くモチベーションのひとつだと思いますし、今後は新人に仕事を教えるということもあると思います。ただ、本人が現状のポジションを望んでいる場合、こちらも強引に進めることはできません。会社と本人の意思をどう合わせていくのかも含めて考えていきたいです。
また、今発達障害のある方に担当してもらっているのは、どれも工場内の作業なので、新しく事務所内での業務も切り出していきたい気持ちはありますね。戦力になってもらいたいのと、世の中に一定割合、障害のある方がいるのだから、当社にも一定割合の障害のある方がいて当然だろうと思います。人員が世の中の縮図に近ければ近いほど自然な会社だと思います。そこが社会とかけ離れた構成になっていると、世の中とは違う方向に行ってしまい、どこかで無理がくるのではないかと感じています。他の企業の方にも、発達障害のある方が戦力になると知ってほしいですね。不安もあるかもしれませんが、実際に実習生を受け入れてみれば、一緒に仕事ができると感じるでしょう。支援機関と連携すればハードルも下がるので、チャレンジしてみてほしいです。
働いている人の総和が会社です。みんながよくならないと会社もよくならないし、会社を使ってみんながよくなっていく。みんなが一生懸命な会社がいい会社だと思います。そして、障害のある方はみんな仕事熱心で、一生懸命です。そういうところを見ると、ありがたいし、見習わなければいけないと思いますね。
企業・団体名 | 株式会社エムツープレスト |
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所在地 | 〒566-0045 大阪府摂津市南別府町15-20 |
HP | https://www.m2-p.com/ |
事業概要 | トムソン型(木型)による打ち抜き加工・裁断加工を得意とする部品製造会社。「私たちは、打ち抜くモノづくりにより社会に貢献し、人を尊重する信頼される企業を創り上げます」を経営理念とする。 |