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迷惑をかけない?

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

凸凹のある発達障害当事者は「迷惑をかけないか」という思いで悩みやすい

「迷惑をかけない」。これは、ADHD当事者の私を苦しめ続けてきた考え方だ。
発達障害のある多くの方も同じではないかと想像している。
そこで今回は、発達障害と迷惑の関係について考えてみたい。

私に関して言えば「迷惑をかけない」という考え方は非常に苦痛を伴うものだった。
何をしても迷惑をかけてしまうからだ。

ADHD不注意型の私はミスが絶対に出る。
例えば、今年の1月1日、実家で3合の米を炊くように頼まれた。
しかし、3合の米に対して水を2合しかいれないというミスをした。
パサパサの米を炊いて正月早々家族を不機嫌にしてしまった。

こんな私だから、いつもどこかで迷惑をかける。

発達障害のある方は、発達に凸凹がある。
得意なことは高いレベルでできるが、苦手なことは著しくできない。
すべての分野においてある一定レベルで結果を出すことがとても難しい。
もっと言えば、どこかで迷惑をかけ続ける可能性が高い。そして改善は困難である。

しかし、日本社会は減点法の文化が強く残っているように思われる。
つまり迷惑をかけることを強く嫌がる。
他の人より特別良くできたとしても大きなプラスが得られないが、他の人よりできないことについては大きな減点がつけられる。
迷惑をどこかでかける発達障害当事者にとっては非常に不利な状況に感じられる。

迷惑をかけることについては(1)自分自身(2)周囲の人々、の両方が嫌がる。
(その人の個性・周囲の環境によって程度は異なる)

迷惑をかけると周囲の人々に罪悪感を持ち、精神的に辛くなる。
そして、周囲の人々から嫌がられるようになり、ますます辛くなる。
このような形で悪循環が起こりやすい。

私自身も、このような悪循環に何度も陥った。
会社員を辞めたのもこの悪循環に陥ったのがきっかけだった。
フリーランスになってからもこの悪循環のおかげで何度か取引停止になっている。

「迷惑をかけてしまう」と悩む発達障害当事者の苦しさを和らげる考え方

では、そんな悪循環からどう逃れればいいのだろうか?
本人の努力や仕事の環境調整が本質的に必要になるので簡単ではない。
今回は、私を少し救ってくれた言葉を紹介したい。

インターネット上でたまたま見たある記事で日本とインドを比較していた。
そこに以下のように書かれていた。

日本の親は「人に迷惑かけちゃダメですよ」と教えて、インドでは「お前は人に迷惑かけて生きているのだから、人のことも許してあげなさい」と教えるそうだよ。

悩んでいた私はこれを読んで楽になった。確かに発達障害の有無に関係なく、必ず人は誰かに迷惑をかける。
だから、迷惑をかけないようにするのではなく、他者の迷惑を許せばいいのだと思った。

この記事を読んだ後、私の行動が少し変わった。
以前は、迷惑をかけないように心がけ、迷惑をかけると強く自分を責めた。
そして他人が迷惑をかけたときは他人を責めた。

記事を読んだ後は、迷惑は誰でもかけるものと考えを変えた。
迷惑をかけても自分をあまり責めなくなった。
その代わり、他人のかける迷惑を受け入れられるようになった。
迷惑をかけた相手、迷惑をかけそうな相手が困ったとき、役に立てるときはできるだけサポートするようにした。

そうすると、自分も楽になったし、周囲との関係も持ちつ持たれつになった。
迷惑をかけてもお互い様と思えるようになり、仕事での人間関係が改善した。
私にとって小さな心構えだが、大きな結果を生んだ。

迷惑をかける自分を許し、迷惑をかける他人も許す。
ぜひ試してみてください。

追記:
妻に感想をもらおうと思ってこの記事を見せてみた。
妻のコメント「あなたは私に散々迷惑をかけてきたよね。
次の誕生日プレゼントを楽しみにしているよ。」
迷惑をかけてきたのは紛れもない事実。覚悟しておきます……。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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