はじめの一歩から広がる可能性
企業・団体名:株式会社ホットランド大阪
http://www.hotland.co.jp/
「就職活動では、ご自身の素直な気持ちを伝えてほしいです」そうお話しくださったのは、たこ焼チェーン「築地銀だこ」や、たい焼きチェーン「薄皮たい焼 銀のあん」を展開する株式会社ホットランド大阪。2015年度、就労移行支援事業所エンカレッジ京都より実習生を受入れ、体制を整えながら障害者雇用を進めました。現在に至るまでどのような道のりだったのでしょうか。エリアマネージャーの中森大将さん(左)・管理部マネージャーの矢島智恵さん(右)にうかがいました。
じっくり時間をかけて 職場実習で見極める
- Q.障害者雇用に取り組むきっかけや目的はなんですか?
矢島:当社の規模から、法律上障害者雇用を進める必要があり、はじめはハローワーク経由での採用に向けて動いていました。でも、進め方も、採用後のフォローの仕方もわからず積極的になれずにいました。ちょうどその頃参加したセミナーで、障害者雇用を円滑に進めるには、障害者雇用や障害のある方のサポートに特化している人たちと一緒に進める必要があると聴きました。そこでまず、障害者雇用のコンサルティング会社に相談をしました。その後、エンカレッジとつながり、実習を経た採用に取り組むため、実習生の仕事をつくることから始めました。
中森:当社は飲食店を展開しています。「薄皮たい焼 銀のあん」は、コンスタントに仕込み作業があるので、実習生にも活躍してもらえると感じました。また、受入れ体制が大事と聞いたので、「チャレンジしたい」という思いのある店長の元で、始めようと考えました。銀のあんの店長会議で、積極的に障害者雇用を進めたいと話をすると、何人か手を挙げてくれました。その中から、店舗の広さや忙しさなどを比較して、一番受入れに適している店舗に決めました。店長自身、障害者雇用に前から関心はあったものの、自分ではどうしてよいのかわからず、声を上げられないでいたようです。
- Q.採用された方の仕事内容はなんですか?
中森:銀のあんでは、クロワッサン生地に餡やクリームをはさんで焼き上げる「クロワッサンたい焼き」が売れ筋で、その仕込みをバックヤードで担当してもらっています。クロワッサン生地を解凍し、餡をのせ、上からまた生地で包み、バットに並べるといった内容です。土日はお客様も多く、常に誰かが仕込んでいないと追いつきません。これまではアルバイトの仕事でしたが、Aさんに担当してもらうようになりました。接客はありませんが、「いらっしゃいませ」と元気に復唱してくれています。実はAさんの声が一番大きいんですよ。
- Q.採用の決め手になったことは?
中森:実習を通しての採用は今回が初めてでした。支援員の方から、見極めにはしっかり時間をかけて、双方の不安を取り除いてから、雇用へ進めましょうとお話があり、実習期間を2~3週間と長く設定しました。実習は時期をずらして3名受入れました。各回最初の2日間は支援員の方が付き添ってくれたので、店長も相談しながら進められたようです。店長としては、3名とも採用したいと言っていましたが、後はご本人の希望との兼ね合い。Aさんとはお互いの想いが一致したので、再度雇用前の実習を行い、面談を経て採用となりました。最初の方を受入れてから、採用まで、約2か月かかりました。それでも、ご本人の強み・弱みや仕事内容を見極めた上での採用と、面接のみで「雇ってみないとわからない」のとでは全然違います。こちらもご本人の強みを活かす、苦手に配慮する準備もできます。
- Q.支援機関のサポートについて
矢島:初めての取り組みのため、サポートしてくれる方がいるということが安心につながりました。ご本人の特性や課題について相談できる、できないでは大きく違います。また、ご本人から苦手なことを伝えてくれるんです。就労移行支援事業所でトレーニングしてきたから、自身の苦手なこともわかって伝えてくれるのだと思います。
中森:今でも支援員の方が定期的に、店舗で状況を確認してくださいます。「こうした方がAさんにとっても、お店にとってもいいですよ」といったアドバイスは勉強になります。また、店長が考えて工夫したことへのフィードバックもあるので、店長も安心してチャレンジできるんです。一人で考えると煮詰まってしまうけれど、冷静に判断してくれる人がいるのは心強いと言っています。
矢島:本人と会社の間に入って、橋渡しをしてくださるのもありがたいです。「もっとこうしてほしい」と本人から直接会社に伝えるのが難しいこともありますよね。何かあったときに、自分たちだけではなく相談できる人がいるのは、本人・会社どちらにとってもいいですね。
周囲の理解と苦手への工夫で、活躍できる環境を
- Q.受入れをしている中で、難しかったことや不安だったことはありますか?
中森:受入れ前の準備で試行錯誤しました。受入れには現場スタッフの協力が必要です。事前に全スタッフへ周知する場を設けることにしましたが、どのように伝えると理解してもらえるのか、店長と一緒に考えました。会社として取り組む必要があること、大変なこともあるかもしれないということ。でも、最も伝えたかったのは、配慮があれば強みを活かして力を発揮してくれるということ。正直大変な仕事なんです。作業は単純ですが、ずっと同じことをし続けるには根気がいります。その業務を担ってもらえるのは、本当に助かるんです。でも、実際にスタッフに話をすれば、すぐに理解してもらえて、受入れに向けた体制は整いました。
- Q.受入れをする中でよかったことや、周囲の変化などありますか?
中森:一つの作業に集中した時は、私達以上の働きぶりで、とても丁寧に仕込んでくれます。私達が仕込んだらちょっと餡がはみ出してしまうこともありますが、そういったこともなく、スタッフも「Aさんが仕込んだたい焼きは焼きやすい」と言っています。今では、新人アルバイトにも仕込みを教えてくれています。とても助かっていますし、スタッフにとっても、いい刺激になっていますね。また、Aさん自身ざっくばらんに話すようになりました。月1回の面談も、最初の頃は「はい」か「いいえ」で答えていたのが、今では「こんな商品があれば売れると思います!」なんて新商品の提案や、自分なりの工夫も話してくれます。現場の知識や愛着をもって、働いてくれていると感じています。元気な方なので、これからも活気面でひっぱっていってほしいです。
- Q.受入れの際に工夫・配慮・大切にしていることはなんですか?
中森:今回の受入れでは、店長が1日のながれを細かく書いたスケジュール表を用意してくれました。イレギュラーなことは苦手だけれど、仕事の見通しが立てば働きやすいと事前に聞いていたためです。そのおかげで、受入れもスムーズでした。また、優先順位を付けるのも苦手と言っていたので、1つの仕事が終わったら、次の仕事という風に、複数の仕事を一度に指示しないようにしています。銀のあんはお客様との距離が近いので、優先順位もよく変わります。それでも、Aさんの様子を見て、今している作業が終わってから指示をするようにしています。
矢島:そのときに、他のスタッフが「なんでAさんだけ特別なの?」とならないよう、店長がAさんに必要な配慮の周知をしっかりしてくれています。みんなと指示の仕方が違うかもしれないけど、それは苦手なことがあるからと。他のスタッフも協力的で、その分理解も進んでいると思います。
- Q.受入れにあたっての将来像や今後の方針などをお聞かせください。
矢島:採用に至るまでなにが必要で、どんな流れなのか、今回の採用でモデルができました。他の店舗や業種でも応用できそうなので、もっと広げていきたいですね。また、Aさんの継続した就労はもちろん、社内での理解をもっと深めて、受入れ体制を整えていきたいです。
中森:今後の会議でも、店長から現状を報告する機会をつくりたいです。実は、店長が一生懸命取り組んでくれていることを、私達しか知らないんです。Aさんに入ってもらって本当に助かっているので、その現状を共有して、他の店長にも積極的に手を挙げてもらえるようにしたいですね。そうやって、今後の採用も前向きに取り組んでいこうと思っています。面接や実習に来てくださる方に関しては、元気よく仕事してくれる方がいいですね。失敗があってもいいので、引きずらず、次に活かしていけるような方に来てほしいです。
企業・団体名 | 株式会社ホットランド大阪 |
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所在地 | 〒532-0011 大阪府大阪市淀川区西中島5-13-17 6F |
HP | http://www.hotland.co.jp/ |
事業概要 | 「日本一うまい食を通じて、ほっとした安らぎと笑顔いっぱいのだんらんを提供できることを最上の喜びとする」を企業理念とし、日本の食文化に特化した様々な事業を実施。たこ焼チェーン「築地銀だこ」(国内外で400店舗以上)、たい焼きチェーン「薄皮たい焼 銀のあん」など展開。 |