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どう対応すればいいか?~発達障害のある学生の就活中の親との関わり方(3)~

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

発達障害のある学生の就活中の親との関わり方(1)
発達障害のある学生の就活中の親との関わり方(2)
の続きになる。前回は、親から「自立」をしていくことが、何よりも重要であることを書いた。

今回は、具体的にどうしていけばいいのかを書きたい。発達障害のある方が親との関わり合いにおいて、した方がいいことは3つある。それは、
(A)支援者の獲得
(B)親との対話
(C)理論武装

の3つだ。

発達障害のある方が親と関わる際の3つのこと

(A)支援者の獲得

まず、最もした方が良いのが、親以外の支援者を見つけることだ。このブログでは、何度も「支援者を見つけるべきだ」と言っているが、やはり支援者の存在は非常に大きい。

前々回で、親ができる支援は、
(1)環境支援
(2)情報支援
(3)活動支援
(4)キャリア支援
(5)精神支援

に分かれると書いた。

全ての支援を親から受けるのであれば、自立をするのはなかなか難しい。
例えば、(2)~(5)の支援は支援者からも受けることができる。
このように、支援を受けられる人物を増やすことで、特定の人からの依存を分散していくことが自立には重要なのだ。

また、だいたいの支援者は(2)~(4)について親より多くの情報・経験を持っている。
例えば、(3)活動支援についてであるが、親からのアドバイスが逆効果になることも少なくない。なぜなら、親のアドバイスは多くの場合、約30年までの自分の就職活動の体験に基づいている。30年で日本の就職活動は大きく変わっているので、アドバイスが時代遅れになっている可能性は少なくない。

以前、ある大学で就職活動の個別指導員をした時に、学生がエントリーシートを持ってきて「親にこう書けと言われたけど、大丈夫か確認してほしい」と言った。書かれたエントリーシートを見てみると、ポイントが相当ずれており、どこに出しても通過できないレベルだった。実は、このようなケースは少なくない。履歴書、エントリーシート、面接対策など、親のアドバイスが明らかにおかしいことを私は何度も遭遇している。
一般雇用でもこのような状態なので、障害者雇用については、親はもっと分からない部分が多いだろう。もちろん、プロの支援者が絶対的な正解を持っているわけではない。しかし、プロの支援者の手助けを得ることで、親の意見を客観視できるようになるのだ。

発達障害のある方で、障害者手帳を持っている方のみ使える手段ではあるが、就労移行支援施設はある程度手厚い支援を受けることができる。これは就労移行支援施設を利用することの大きなメリットの一つだ。

(B)親との対話

もう一つ、親から自立していくために重要なことは、親と対話することだ。発達障害があるから、コミュニケーション系はちょっと、、、という方が多いことはもちろん承知している。
だが、親との対話によって、親からの干渉が減ることも珍しくない。

対話をするときに大切なことは2つ。自分の想いを率直に話すこと。そして、親の意見をじっくり聞くことだ。特に親の意見をしっかり聞くことは重要だ。案外子供側が親の意見をじっくり聞いていない場合は少なくない。例えば、親が子供の進路に口出しする場合、なぜ親はそう思うのか、理由をじっくり聞いてみる。そうすると、親の真の想いが理解できることも珍しくない。その思いを理解し、その上で自分の希望を伝えてみる。
親側も子供が真摯に聞いてくれたことに満足して、それ以上主張をしなくなることもある。

このようにじっくりと話し合うことで、お互い感情的にならず、合意できる点を探すことができる。

(C)理論武装

こちらが冷静に対話しても親側が感情的になる場合、一方的な命令のみを繰り返す場合はどうするか。あくまで最終手段だが、親を議論で打ち負かすことも最終的な手段としてあり得る。
理論武装し、親の意見のどこが正しくないか、なぜ自分が親の進路や価値観に反対するのかを伝えるのだ。

その際に重要なのは、論理的であることを保ち続けることと、冷静になることだ。論理的、つまり筋道が立つように説明することができれば、親としては反論がしにくくなる。また、感情的になるということは論理面で説得できない場合の反応である場合が多い。就職活動における情報をできるだけ多く集め、親の意見をよく検討し、なぜその意見に反対するのか冷静に伝え続けよう。そうすることで、親がわかってくれるとき、もしくは諦めてくれる時がくる。冷静な議論を粘り強く進めよう。

前々回書いた「(親が)子供に公務員になることを強制する。子供側は民間企業で働きたいが、親が公務員以外はNGと強く主張し、子供が嫌々公務員試験の勉強をしていた。」という学生は、民間企業で働きたいという意向がどうしても強かった。親は「公務員=楽で安定している」という固定観念を強く抱いており、子供に安定的な生活をしてもらうために公務員にこだわっていたのだ。
その学生は、様々な情報収集をし、公務員は楽ではない、安定的な面も揺らいでいるという証拠を多く集め、定期的に親に見せるようにした。しばらくすると、親も民間企業でOKと言ったそうだ。

この理論武装して議論をするという方法は、親をさらに強硬にするリスクもある。自分の固定観念を変えることは難しいからだ。そのリスクも踏まえ、まずは親と対話を重ね、それでも干渉が激しいなどの場合に理論武装をした上で議論してみよう。

ということで、3回に亘って、就職活動中に親との関わり方に悩んだ場合どうするかについて書いた。世の中には本当に様々な親がいるので、今回書いた内容はあくまで原則論である。
中には強烈に子供を束縛し、干渉しようとする親もいる。そのような場合、今回の記事はあまり参考にならないかもしれない。ただ、就職活動では育ててくれた親と向き合わないといけないことが多い。これは発達障害の有無に関係なく言えることだ。

このブログでも何度か取り上げている、ニーバーの祈りというメッセージに出てくる言葉を今回のテーマの最後としたい。

神よ、私たちに変えられないものを受け入れる心の平穏を与えて下さい。変えることのできるものを変える勇気を与えて下さい。そして、変えることのできるものとできないものを見分ける賢さを与えて下さい。

親は変えられない。交替してもらうことはできないし、中年以降の親が変化してくれることもなかなか期待できない。できることは、こちらが変わることだ。

この考え方は自立にもつながる。親との関わりで悩んだら、まず自分が変わっていこう。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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