発達障害特性を無効化する仕組みを作るためのコツ
【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。
発達障害のある方は、その特性と一生付き合っていかないといけない。もちろん、特性が弱まることもある。しかし、それだけではどうしようもない場合も多い。
また、発達障害特性について、意志や努力不足に原因を求めることも危険だ。意志や努力ではどうしようもない領域も多い。例えば、私にはASD(自閉症スペクトラム・旧アスペルガー症候群)の要素が一部あり、場の雰囲気を読むことが苦手だ。そのため、発言をした結果の失言が多いが、失言をしないように努力すると話すことが全くできなくなる。
このように、発達障害特性は厄介だ。そしてその厄介にどう対処していくのかがこのブログ全体のテーマなわけだが、今回は仕組みについて考えてみたい。
発達障害支援の文脈では環境調整と言われることが多いが、環境調整というと、少し大げさな感じがするので、私は仕組みづくりと言っている。
「仕組み」を辞書で調べると、
1 物事の組み立て。構造。機構。
2 事をうまく運ぶために工夫された計画。くわだて。
3 芝居・小説などで、内容・配置などの工夫。趣向。
※デジタル大辞泉(小学館)より引用
とある。
2の示すように事をうまく運ぶための工夫であり、1の示すように構造なので一度仕組みを作り上げると長く使える。
このように、一度作り上げると長く特性に対処できるような仕組みを作り上げることが重要になる。このブログでも、どんな仕組みを作ればいいか、私がどんな仕組みを作ってきているのか、折に触れ説明してきた。
▶ 発達障害のある方が仕事で生き残るために大切なたった一つのこと
▶ ASD(旧アスペルガー症候群)のある方向け仕事上の暗黙のルールに対処する方法
今回は、どんな仕組みを作ればいいかもう少し体系的に考えてみたい。
私は仕組みづくりを3つに分けている。
[1] 物理的
[2] 社会的
[3] システム的
だ。
発達障害特性に対処する3つの仕組みづくり
[1]物理的
具体的な物の配置や物を取り除くことによって、特性の対策になることが多い。
例えば、私は整理整頓が非常に苦手なので、大切な書類をすぐ失くす。特に大事なことが多い郵送物入れを作り、郵送物は(妻が)そこに入れるようにしている。
また、持っていくべきものは高い確率で忘れる。そのため玄関前に絶対持っていくもの箱を作り、覚えているうちにドアの前に設置する。そうすると、忙しない朝でも忘れ物をしなくて済む。
物を取り除くことも有効だ。例えば、私は片付けが非常に苦手なのだが、机の引き出しがある場合、引き出し自体を取り除くことが多い。引き出しに何でも入れてしまって最終的に余計に部屋が汚くなってしまうからだ。
[2]社会的
人間関係を作り上げることも仕組みと言える。人間関係をうまく活用することによって、特性上の困りごとはかなり防ぐことができる。私は、この社会的仕組みを「関係性作り」「ルール化」「配慮」に分けている。
「関係性作り」とは、もし必要な時にサポートを依頼できる人間関係を増やすことである。私はミスが多く、資料作成を行うと、何度自分でチェックしてもミスが非常に多い。そこで、チェックをしてもらえる人を2人作った。経験・関係性は様々だが、とてもありがたい(もちろん報酬は支払う)。
「ルール化」とは、その名の通り、ルールを合意することである。このブログのどこかで書いたような気がするが、私があまりにも片付けられないので、妻と「5・5ルール」というものを作った。「私は1日5分の片付けをする。しなかったら、500円を家族の貯金箱に入れる」というものだ。私は500円を払いたくないので嫌々片付けをする。そうすると、部屋が綺麗になり妻が喜ぶ。私が片付けを忘れたら家族の貯金箱に500円が投入される。妻はもっと喜ぶ。
「配慮」とは、発達障害特性を明らかにした上で支援を求めることを指す。発達障害のある方への支援としてはかなり一般的だろう。例えば、私の失言の多さについては、指摘してくれる人を何人か作るようにしている。30代後半の私に対して、注意をしてくれる人はほとんどいない。失言をしても、単に失礼な奴と思われるだけである。ただし、何人かの人には発達障害特性のことを伝えた上で、失礼な言動があれば伝えてもらうようにしている。そうすることで、失礼な言動に関するデータがたまり、だんだんと失言の数は減ってきた。
このように社会的な仕組みは有効だが、大切なのが互恵性である。お互いにとってメリットのある形にしないと、その仕組みは長くは続かない。
[3]システム的
スマホ・パソコンは現代生活にとって必需品となっている。使用時間も長くソフトウェア・アプリケーションも充実している。そのため、便利に活用することもできるし、使い過ぎなど生活の質を下げる原因にもなる。
仕組みとして活用するためには「機能の追加」「機能制限」の2つに分けられる。
「機能の追加」としては、世の中に出回っているアプリは山のようにある。自分の特性に合わせて必要なアプリを使うと、それだけで生活はやりやすくなる。例えば、私は不注意性が高いので、プッシュ通知が充実しているアプリを選ぶようにしている。また、二度寝による寝坊が多いので目覚ましは音を消すことが面倒なアプリにしている。多くのアプリが世の中にあるので、自分の困りごと・特性にあったアプリは探せば見つかることが多い。色々ダウンロードをして試してみよう。
「機能制限」としては、衝動性の高い私はついついスマホを使いすぎてしまう。かなり時間の無駄である。そのため、時間制限をかけている。1日1時間を超えると、仕事で絶対に活用することが必要なアプリ以外は使えなくしている。
以上のような仕組みをうまく作っていくと、少しずつ楽になってくる。
発達障害のある方は、ぜひ自分にあった仕組みを作ってみてほしい。
【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。
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