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採用側から発達障害のある方を見てみると…

【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。

 

久しぶりの就活ネタ。
ただ、いつもの「就活をする側」ではなく、「採用する側」の視点で考えてみたい。

多くはないが、私は採用代行の仕事もしている。
企業から依頼を受けて、グループディスカッションや1次面接の面接官を行うのだ。

面接の面接官

1次面接の面接官を行った際の「ある学生」

先日、ある企業の新卒採用で私が1次面接の面接官をしていた時の話だ。
ある学生の立ち振る舞いや言動に違和感を感じた。話がどうもうまく噛み合わない。

私の中にある仮説が思い浮かんだ。もしかして、彼はASD(自閉症スペクトラム・旧アスペルガー症候群)ではないかと。
面接官として、その仮説を応募学生にぶつけることはできない。しかし、面接が進む中で、彼は自分が幼い時にアスペルガー症候群と診断されたことを教えてくれた。結果的に私の仮説は正しかった。

面接官として求められる、紳士的だが適度に距離を保つ態度を私はとり続けた。
そして、私は彼を不採用とした。ASDだからではない。
発達障害であることを不採用の基準と明記した企業は、私が聞いた限りではない。
私が彼を不採用にしたのは、純粋にその企業の採用基準を満たしていなかったからだ。
採用基準の詳細は言えないが、仕事内容に合った適切なものだと感じている。その採用基準を彼は明らかに満たしていなかった。

彼を無理に通すことを、私はできたのかもしれない。しかし、続く2次面接でおそらく落とされただろう。
例え入社したとしても、その企業で彼が幸せになれるとは思えなかった。すぐ不適応を起こしてしまうだろう。

彼は優秀だった。大学時代に努力もしてきたし、強い想いも持っていた。
ただ、その企業の求める人物像には合致せず、その企業で必要とされる要素が残念ながら欠落していたのだ。

彼を必要としている会社とはどんなところだろうか、と考えてみた。
残念ながら私が採用基準を知っている中では、一般雇用では当てはまるところがなかった。
多くの会社で、コミュニケーション能力が求められているのは紛れもない事実。
どんな場面でも、誰とでもある程度うまく関係を構築することができる能力が日本社会では求められ、採用基準とされるのだ。

メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用

背景には日本の雇用形態にある。「発達障害と社会人基礎力」でも少し書いたが、日本の雇用はメンバーシップ型と言われる。
組織の一員として社員を雇用し、その社員は様々な仕事を経験しながら組織の階層を上がっていく。
そのため、どんな仕事にもある程度対応でき、どんな環境でも周囲とある程度の関係性を作っていけるコミュニケーション能力があれば、その企業で適応しやすい。しかし、発達障害のある方には向いていない。

一方で、欧米の雇用形態はジョブ型と言われる。ジョブ型は企業にとって必要なポストが生まれたら(空きが出たら)、採用が行われる。
違う職種への異動は基本的になく、特定の仕事に集中することが求められる。適応可能性という観点からは、発達障害のある方に比較的向いていると思われる。

メンバーシップ型雇用とメンジョブ型雇用

メンバーシップ型とジョブ型にそれぞれのメリット・デメリットがあり、一概には言えない。

ただ、メンバーシップ型特有のジョブローテーションでは、発達障害のある方が正社員として成長していくことは簡単ではないだろう。どこかでつまずいてしまう可能性が高いのだ。
そして、企業による解雇が行いにくい日本の法制度や、日本の風土ではメンバーシップ型中心の雇用はしばらくは変わらないだろう。
となると、発達障害のある方が面接に通過し、企業に適応していくためにはどうしたらいいのか。やはり障害者手帳を持ち、障害者雇用を目指すことが近道なのかもしれない。

🔽 メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違いや、発達障害のある方が働きやすい雇用の形などについては、こちらの記事もご参照ください。
https://berd.benesse.jp/special/co-bo/co-bo_theme4-2.php
(引用元)ベネッセ教育総合研究所 「発達障害のある人たちの就労に関わる問題」 東京大学先端科学技術研究センター 近藤武夫准教授編【後編】

発達障害特性がある方の就職活動について思うこと

発達障害のある方が就職活動を苦労することは、支援側として当然知っていた。
しかし、採用側としての立場では、やはり一般雇用では発達障害のある方を採用しにくいという現実を目の前に突きつけられた。

私が面接で出会った学生は、就活が始まったばかりのタイミングで自分の発達障害特性を深くは考えていなかった。
一般雇用の採用試験において、面接官は彼を落とさざるをえないだろう。これから彼は嫌でも自分の発達障害特性と向き合わざるを得なくなるだろう。

私が彼と合うことは、もう2度とないだろう。
しかし、発達障害傾向を持ちながら就職活動を開始し、苦しんでいく若者はこれからも出続けるのだろう。

なんともやりきれない気持ちで、面接官の仕事を続けている。

 

【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。

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