障害者雇用での就職活動
障害者雇用での就職と障害者手帳
障害者雇用で就職するには、障害者手帳が必要になりますが、発達障害者が手帳を取得する場合、「療育手帳」、「精神障害者保健福祉手帳」のどちらかになります。
発達障害のある方は、大人になってから医師の診断を受けるケースも多く、障害者手帳の取得をためらうことも珍しくありません。一方で、企業は、障害者雇用率制度を元に障害者を雇用する義務があるため、障害者手帳取得により、就職しやすくなる可能性があります。
障害者手帳を取得し、障害者雇用で就職する事のメリット/デメリットを理解しながら就職活動を進めて欲しいと思いますが、その前に障害者雇用率制度について説明します。
民間企業・公的機関の障害者雇用
障害者雇用率制度とは
企業が障害のある方を何人雇用するか?は障害者雇用促進法で決まっており、「法定雇用率」と呼ばれています。
従業員を45.5人以上雇用している民間企業の場合の法定雇用率は2.2%となり、令和4年4月までにはさらに0.1%引き上げとなり、法定雇用率は2.3%になります。
- 例)
- 従業員を46人雇用している民間企業→1人
- 従業員を182人雇用している民間企業→4人 の障害のある方を雇用します。
民間企業の法定雇用率 | 公的機関の法定雇用率 |
---|---|
民間企業(従業員数45.5人以上)…2.2% 特殊法人(独立行政法人、国立大学法人等)…2.5% |
国、地方公共団体…2.5% 教育委員会…2.4% |
「障害者雇用率」と「雇用されている障害者の人数」の推移
出典:厚生労働省「平成30年 障害者雇用状況の集計結果」
発達障害者が障害者雇用で就職するためには?
企業が発達障害者を障害者雇用率の算定対象にするためには、以下の2点が必要です。
1)障害者手帳を持っていること
2)障害者手帳を持っている事を企業に知らせていること
*医師から発達障害の診断を受けていても、障害者手帳を持っていなければ、障害者雇用率の対象にはなりません。
一方で、まだ障害者雇用で就職をするかどうか、悩みを抱えたまま、就労に向けたトレーニングを希望されることもあるかと思います。
就労移行支援事業所は、障害者手帳がなくとも、行政が発行する障害福祉サービス受給者証(*1)があれば利用することができます。
ただし、支援を受けて就職する場合、求人の多くが障害者雇用を前提としているため、その場合は障害者手帳が必要になります。
- (*1)障害福祉サービス受給者証
- 医師による発達障害の診断があり、かつ、利用したい就労移行支援事業所が決まっている場合は、お住まいの地域の行政に連絡し、障害福祉サービス受給者証を発行してもらうことになります。 お住まいの地域によって、具体的に相談する行政の窓口や発効までの手続きは異なります。
障害者雇用での就職を検討する場合の選択肢
障害者雇用での選択肢は、大きく以下の3つの可能性が挙げられます。
1)一般企業などの障害者雇用
一般企業(従業員数45.5人以上)は、障害者雇用促進表に基づいて、障害のある方を雇用しなければなりません。各部署や店舗に1人ずつ障害のある方を採用し、健常者と一緒に仕事をしているなど、一般雇用とあまり変わらない環境で仕事をする方も多くいます。環境面での配慮や周囲の理解があれば、仕事に注力しやすい環境にあるでしょう。
また、障害者雇用率制度の対象外である従業員数45人以下の中小企業であっても、積極的に障害のある方を雇用したいと考える企業もあります。法制度に縛られず、自分たちの意思で障害者を雇い入れるため、障害者雇用に熱心で、サポートへの意欲も高く、発達障害の特性があっても、働きやすい会社も数多くあります。
*障害者雇用率制度の対象外であっても、障害者の働きやすい環境を構築するため、各種制度や助成金を活用する場合があり、その際は、障害者手帳が必要になることもあります。
2)特例子会社
障害者雇用促進法に基づいて、企業が障害者雇用をするために、設立された子会社のことです。障害者雇用が主たる目的であり、業務内容や業務の進め方だけではなく、設備面や環境面も障害のある方にとって配慮されていることが多いです。障害のある方がたくさん働いている環境であるため、障害に対する理解が進んでいることなどから、安心して働きやすい職場ともいえます。また、特別な配慮が必要な場合も、働きやすい環境が実現しやすい職場でもあります。
3)障害者福祉サービスにおける就労継続支援A型事業所
企業等に就労することが困難ではあるものの、継続的に就労することが可能な方の場合は、就労継続支援A型事業所を利用するといった選択肢もあります。公的資金が投入されており、職場に支援者がつくため、支援が必要な発達障害のある方にとってはメリットがあります。
一般企業への就職を目指すことを支援するA型事業所もありますが、一般企業への就職サポートが得られないことがあるため、最終的に一般企業での就職を目指している場合には注意が必要です。
障害者雇用の就職活動プロセス
発達障害者をはじめとした障害者の標準的な障害者雇用での就職活動は一般的に以下の通りです。
STEP1 知る
まずは自分自身と企業について知ることから始めましょう。
✅ 自分について知る
下記3点について整理しましょう。
1)自分の得意・不得意を知る
2)どんなことで役に立ちたいのかを知る
3)希望する条件(業務内容、勤務地、待遇など)
まずは、ご自身の障害特性について理解し、どんな強みがあり、どんな配慮が必要か整理しましょう。
✅ 企業について知る
一般企業/障害者雇用問わず、どのような企業があるのか調査をしましょう。
業務内容、勤務地、待遇など、HPからでもわかることもたくさんあります。
障害者雇用の場合、特例子会社や就労継続支援A型事業所といった、障害特性に配慮された企業形態もありますので、そちらも参考にして下さい。
以上を踏まえて、一般雇用で行くのか、障害者雇用で行くのか、それぞれのメリット/デメリットを踏まえて方針を決めるとよいでしょう。
STEP2 トレーニングを行う
就労移行支援事業所や職業センターで行われる障害者に特化したトレーニングや、障害の有無関係なく、大学や各都道府県などの自治体が実施する大学生や第2新卒向け学生の就職活動講座などがあります。
自分自身のスキルを高めたり、課題を解決したりするのに活用しましょう。一般的に就労移行支援事業所は、卒業後に利用できますが、卒業年次でも利用できることがありますので、希望する就労移行支援事業所にお問い合わせて下さい。
STEP3 求職活動を行う
新卒採用の場合、通常は一括採用のため、採用時期に乗り遅れると、就職の機会を逃してしまうことがありますが、障害者雇用の場合、通年採用が多く、時期にとらわれることなく活動を進めることが多いです。
求人は、ハローワークでの紹介や各種合同説明会を通して行われますが、実は発達障害のある方が障害者雇用で就職しようとする場合、支援機関のサポートがないと採用される確率が下がることがあります。これは企業が、発達障害者の雇用の経験が少なく、採用する場合は支援機関のサポートがほしいと考えているからです。したがって、就労移行支援事業所や障害者職業センターなどの支援機関を利用しながら、就職活動を行うのが望ましいと考えられます。
STEP4 実習・インターンシップを行う
一般的な就職活動は、面接や筆記試験を受けて採用が決まります。発達障害のある方の場合でも、もちろん面接を受けますが、大きな違いとなるのが、「職場実習(インターンシップ)」の存在です。発達障害のある方も、経験から学んでいくことができます。また、企業側も発達障害の特性を理解しているわけではないため、実際に仕事を体験して、仕事や職場環境に適応できるか、必要な配慮は何かを確認したうえで採用に至ります。
【実習・インターンシップのメリット】
発達障害者のメリット
- 面接だけではわからない、実際の能力を見てもらえる
- 職場の環境を事前に知ることができる
- 仕事への向き、不向きを知ることができる
- 必要な配慮を知ってもらえる
企業のメリット
- 面接だけではわからない、実際の能力を見ることができる
- 職場環境に適応できるか事前に知ることができる
STEP5 継続して就労する
「働く」ということは就職することがゴールではありません。企業の中で力を発揮しながら、継続して働き続けることが大切です。実は就職してからの悩みの方が尽きないことが多く、業務上の悩みから人間関係上の悩みまで様々です。また、企業は採用した社員に成長し続けることを求めます。これは対象が発達障害者であっても基本的に同じです。
障害者雇用で就職し、かつ支援機関がサポートについている場合は、支援機関による定期的な面談が行われることがあります。仕事だけではなく、職場の人間関係の悩みについて、支援機関に相談することが、長く働き続けるポイントになります。