発達障害のある学生が学業と就職活動を両立するためのコツ(1)
【執筆者】かめたーとる
【プロフィール】
ADHD当事者。大学でのキャリア教育や就職活動支援、企業での障害者雇用の研修講師を務める。
この文章を書いている2021年2月中旬時点で、私は大学の単位に関する採点を全て終えた。単位点の採点というのは学生にとってももちろん嫌だろうが、点数をつける講師側にとっても気持ち良くはないものだ。
講師の頭を悩ます採点の問題
シラバスや初回授業で単位の採点基準を示し、それにしたがって採点する。だが、その採点にはどうしても曖昧な部分が出てくる。例えば、レポートであれば、20点満点としてなぜAさんが15点で、 Bさんが12点なのかという点について、基準を作っても完全に厳密なものにすることはできない。
また、学生に様々な事情がある場合、どこまで考慮に入れるのかも悩む。オンライン講義でテスト時間にWi-Fiがつながらなかったと主張する学生の対応はどうするか。また身内に不幸があった場合の対応はどうするのか(平時と比べ、テスト期間はかなり高い確率で学生の祖父母が死亡するような気がする)。講師側もそれなりに頭を悩ますのだ。
そして、障害のある学生(発達障害含む)の対応をどうするのか。これにも頭を悩ます。私が行っているどこの大学も、ここ2~3年で学生からの配慮願いが講師のところにも届くようになった。その学生の求める配慮をどこまで受け入れるのか?また、配慮願いが出ていないが、明らかに配慮が必要に見える学生にどう対処するのかも、頭を悩ますことが多い。
また、就職活動も悩ましい。大学の教員の一部は、就職活動はあくまで授業外にやるべきとの考えで、全く考慮に入れない。一方で、就職活動であることの証明ができれば救済対象にする教員もいる。私は後者の側だが、15回の講義中8回を就職活動で休んだ学生の対応は悩んだ。
このように、学業と就職活動の両立はただでさえ簡単ではない。発達障害があれば、なおのこと両立は難しくなる。
なぜ発達障害のある学生は学業と就職活動の両立に苦戦するか
では、発達障害のある学生はなぜ、学業と就職活動の両立に苦戦しがちなのだろうか。
私が思うに、大きな理由は3つある。
1)就職活動時点で単位が多く残っていること
1つ目の理由は、就職活動時点で単位が多く残っていることだ。全体的な傾向として、発達障害のある学生は単位が多く残っていることが多い。理由は特性や状況に応じて様々である。グループワークが極度に苦手、夜更かししがちで朝起きられない、光や音に過敏で気になりすぎるなど、数え出すとキリがない。ちなみに、私は大学に5年間通ったので、就職活動時点で単位が多く残っていたことは言うまでもない。
単位が多く残ると、就職活動の時点でも単位を多く取りにいかざるを得ない。そのため、単位が多く残っていることが、学業と就職活動の両立を苦戦させるさらなる原因となるのだ。
2)そもそも就職活動に苦戦しがちである
2つ目の理由は、発達障害のある学生はそもそも就職活動に苦戦しがちであることだ。このブログでも何度か書いているが、様々な理由から発達障害のある学生は就職活動、特に面接に苦労する。
就職活動に苦しむと、当然それだけ就職活動が長引く。説明会・面接が講義と重なることもあるし、履歴書・エントリーシートの提出期限が、大学のレポートの提出期限と重なることもある。このように時間的制約があるだけではなく、就職活動が終わらないストレスから、学業に対するモチベーションが低下する場合も少なくない。就職活動が決まらないことで、学業が上手くいかなくなることは必然的に多いのだ。
3)マルチタスクが苦手
最後に、3つ目の理由として、発達障害のある方は、同時にたくさんの業務に取り組むマルチタスクが苦手であることが多い。ASDのある方は、一つ一つ丁寧に対処することが得意だが、突発事項や割り込み事項が多いと混乱してしまいやすくなる。また、ADHDのある方は、多くの業務が発生すると忘れてしまうなどの抜け漏れが多くなりやすい。
就職活動をしながら、大学の講義もあるとどうなるか。大学の講義だけでも、複数の科目があり、それぞれの科目でテスト準備やレポート作成に追われる。それだけでも大変なのに、就職活動も加わるとさらに大変だ。履歴書・エントリーシートだけでなく、企業分析やら、面接準備やら、様々なタスクを同時並行でどんどんこなしていく必要がある。となると、発達障害のある方は混乱してしまいやすいのだ。
以上のような3つの理由から、発達障害のある方は学業と就職活動の両立が難しい。
ただ、
1)単位が多く残る、については学業全体の問題だし、2)就職活動に苦戦しがちについては就職活動全体の問題だ。問題の規模が大きすぎるので、次回、3)マルチタスクが苦手についてどのように対策をすればいいのかを書いてみたい。
【かめたーとる】
ADHD(注意・欠陥多動性障害)の診断を受けた当事者。大学卒業後、金融機関を経てベンチャー企業に出向。そこで不適応を起こして逃げるようにフリーランスに。小・中学生対象の塾講師を経て、現在は様々な大学でキャリア教育、就職活動支援の講師をメインに仕事を行なっている。特性上、数々の失敗体験、不適応体験を持つ。発達障害者の就労、ADHDの特性の記事などを担当するはずが、思いつくままに記事を書いている。
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